ロンデンベイルの療養所

第81話 ロンデンベイル

 ロンデンベイル


 そこは、帝国の息のかかった療養所である。

 本来ここは、国境から遥か北の地、帝国からすれば異国である。

 しかし、ここにはこの土地にしかない特殊な龍脈が走っていて、この国の皇帝ですら、不可侵領域とされていた。

 この国、、、タタリア帝国と呼ばれる広大な領土を有する帝国は、その周辺にある国家にとって、常に脅威であった。

 勇猛果敢な騎馬民族でありながら、その政治は安定せず、皇帝の座は目まぐるしく変わった。

 時には王国となり、再び帝国となり、、、、それでも「タタリア」という名称だけは変わることなく在り続けた。

 今、パーティで話している言語も、このタタリアの言語である。

 西タタリア語とは、所詮タタリア語の方言に過ぎない。

 そんな強大な国家が不可侵領域を持つ、これは異常な事と言えた。

 

 ロンデンベイルには、特にオルコ帝国からの修行者、研究者が多く在籍している。

 それは、このオルコ帝国が、このような秘術を得意とする国家であることが強く影響している。

 他ならぬ皇帝が、そもそもシャーマンとして国家を治めているため、配下の貴族は、同様に秘術に長けた者が多い。


 それ故、ラジワットの実家である「ハイヤー家」も、帝国で名立たる名家として知られていた。

 しかし、そのような事情から、ロンデンベイルは誰でも入れる場所ではない。

 特に、オルコ帝国と敵対している国家に対しては、厳重な入城制限をかけていた。

 もちろんマッシュもそのことを知っていて、ラジワットに接触したのである。

 マッシュは、二人と一匹の旅路が、明らかにロンデンベイルを目指す旅人のルートである事を、遠目で見て理解出来ていた。

 だから、どうしてもラジワットと合流して、共に旅をする必要があったのである。


「、、、、、あれですか?、、、あれが、ロンデンベイル、、」


 幸は、ようやく見えて来た目的地に、圧倒されていた。

 それは、予想していた療養所と言う単語からは想像できないほどに大きく、印象の異なるものであった。

 それは、病院というより、もはや要塞に近い物がある。

 高い城壁に囲まれ、高台に作られたこの構造は、もう要塞としか見えない。

 

 、、、なるほど、これは政治的にも重要な要点なんだと、幸は思った。

 

 きっと、同様に思ったことだろう、4人組のパーティも、それは圧倒され、言葉を失うほどに。


 いよいよだ、これでようやく息子さんの治療が出来る、そう思うと、幸の足は速度を増してしまうのである。

 

 ロンデンベイルの検問所は、それまでの検問所や国境とはまるで異なり、チェックが異様に厳しかった。

 特に、あの4人組は、要すれば密入国のようなものだから、終始表情が硬かった。

 どれだけ時間がかかった事だろう、待合室での時間も長く、昼前には到着したと言うのに、もう辺りは暗くなり始めていた。

 荷物検査と身体検査を3回もやって、ようやく城内に入る事が出来た。

 それでも、何とか入城出来た4人は、安堵の表情を浮かべる。

 唯一、表情が浮かないのが、ラジワットであった。


 無理もない、何年も息子と会っていない、一刻も早く息子に会いたい、今はそれだけである。


「みんな、私はこれから病棟へ急ぐ、君たちは腹も減っているだろうから、ここに書いてある宿へ先に向かってくれ、厚遇してくれるはずだ」


 そう言うと、ラジワットはメモをマッシュに渡して別行動をとろうとする。

 幸は、ラジワットの服の裾を掴むと「私も行きます」と言って、ラジワットを見た。

 複雑な表情を浮かべるラジワット。

 それは、今日この日が、息子の運命を決める重要な日となる事を示していた。



 幸が肩を叩いて、もし病が治らないかったら、、、、



 そう思うと、あの屈強なラジワットですら、胸が締め付けられるのである。


「、、、、そうだな、行こうか、、、その為に、これだけ長い時間をかけて、私達は旅をして来たんだからな」


 


 幸がこの世界に来てから、もう6か月半が経とうとしていた。

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