第13話 これが精一杯の誠意
暖炉の火は、少し小さくなっていた。
幸は、薪を火の方へ押し込み、火力を強くすると、新しい薪を足して、部屋を暖めた。
部屋の隅では、ラジワットが大きな身体を丸めて、毛布に包まって寒そうにしている。
幸には、それがまるで、大きなクマが冬眠でもしているように感じられ、何とも可愛く見えていた。
、、、きっと、ラジワットは、自分が泣いた事を気にしているに違いない。
彼の誠実さからすれば、ショックを受けている事は解る。
、、、、だから、その誤解は今夜の内に解いておかなければならない。
「、、、、ん?、、ん?、、、、、どうした、ミユキ?」
幸は、部屋の隅で寝ていたラジワットの毛布の中に、後ろからそっと入り込んだ。
「さっきは、、、その、、ごめんなさい、私、べつに悲しかったり、怖かったりしたんじゃないんです、、、、ラジワットさんの真心が、嬉しくて、、、ちょっと、安心したというか、、、だから、これで、おあいこです!」
先ほどは、ラジワットが自分のベッドに入って温めたのだから、今度は自分がラジワットの毛布に入って温めればおあいこ、、、、という、なんとも単純な発想だが、ラジワットの心には響いていた。
幸は、恥ずかしいと思いながら、それでもラジワットの真心に答えなければいけないという義務感から、一所懸命にラジワットの背中を温め続けた。
後で考えれば、なんとも際どいシチュエーションだと解る事なのだが、この時の幸には、これが精一杯の誠意だと思っていた。
それが、ラジワットにも、痛く伝わっていたのだった。
しばらくすると、幸はウトウトと眠気に襲われた。
眠ったと思ったラジワットは、幸を起こさないよう、慎重にベッドへ運んだ。
実は、人生初の「お姫様抱っこ」であったが、眠気に負けた幸には、その価値は理解出来ていない。
ラジワットは、幸に毛布を掛けると、隣で頬杖をつきながら、幸の寝顔を優しく見守った。
「こんなに健気な子供を、あんな酷い事をするなんて、、、、、」
ラジワットは、幸の頭を何度も撫でながら、それは愛おしんだ。
実は、この時、幸は少し起きていたのだが、そんなラジワットの行為が嬉しくて、もう少しそのままでいてほしく、起きている事がバレないよう、慎重に呼吸をしていた。
再び心がくすぐったくなり、じんわりと温かいものが胸に流れて来ているように感じた。
、、、、、おとうさん
それは一つのキーワードとして、何か閃いたように幸の心が呟いた。
そうか、今まで感じていた、この心がくすぐったいような感触は、父親に対する願望だったのではないだろうか。
実の父親が、あのような状態であったため、幸の中に「お父さんは、こんな人がいい」という希望と、ラジワットが重なっているのだと、幸は解釈したのだった。
ああ、この人がお父さんだったら、自分の人生は、もっと幸福なものになっていただろうに、と。
すると、幸は再び涙腺が緩むのを感じ、そんな感情がバレないよう、必死で涙を堪えた。
優しいラジワットの視線は、そのまま本当に眠ってしまうまで幸に向け続けられた。
眠気の中で、自分は、ラジワットのために、何かしてあげたいと強く感じるようになっていた。
自分に出来る事は少ないが、この雪の山脈を超える事が、ラジワットに対して自分が出来る一番の事だと、幸は思った。
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