第21話 武器
最近、ゴミヤを見てるとよくムカムカする。
この間も、スメラギさんの巨乳に挟まれて喜んでたし。今日だって見え透いた誘惑に負けて、スメラギさんに8000円も払ってた。
そのくせ、あたしへのスパチャは1000円。
金額が全てじゃないのはわかってる。
でも推しであるはずのあたし以上に、スメラギさんに優しくするゴミヤを見てると、どうしてかムカつくのだ。
「ストリ君? ストリ・真緒君?」
「えっ」
ラボのエントランス。
急に名前を呼ばれ、あたしはハッとする。
「どうしたのさ。早く中においでよ」
「ああ……」
視界の真ん中で手招きするのは、セイサ博士。
そういえばあたし、今から自分の武器を見せてもらうんだっけ。
さっきの事で頭がいっぱいで、ついぼーっとしちゃってた。
「ボクはね、早く君にお披露目したくてウズウズしてるんだ!」
「そんなに凄い武器なの?」
「ああ。間違いなく、ボク史上最高の出来だ」
自信満々のセイサ博士。
そこまで言われると、期待もしちゃう。
一体どんな武器なんだろう。
剣なのか、それとも機械系か、もしくはシレイ社長みたいな……のはありえないとして。できれば馴染みのある物がいいな。
「心の準備はいいかい?」
「う、うん」
ラボの内部。
前に適正テストを受けた場所に案内されたあたしは、思わず息を飲んだ。
目の前には台座が。
その上に大きなアタッシュケースが置かれている。
「それじゃいくよ」
セイサ博士はそう言うと、ケースを開いた。
その中にあったのは——。
「スナイパーライフル……?」
「今日からこれが、君の相棒だ」
その平たく長いシルエット。
間違いない。スナイパーライフルだ。
「しかもこれ、L96AWSだよね?」
「ご名答」
「あたしの得意武器じゃん! でもどうして?」
絶賛ドハマり中のソドスナで、数年間ずっと愛用してた武器。
それがこのL96AWS。
「ゴミヤ君に頼まれてね」
「ゴミヤに……?」
小さく頷いたセイサ博士は続ける。
「これは本来、内緒にしておく約束なんだけど。実は今回、君の武器に使った素材は全て、ゴミヤ君が集めたダンジョン因子なんだ」
「そ、そうなの?」
「これだけの品を作り上げるとなると、それなりにコストも掛かるからね。そういう意味でも、彼が討伐したクロゴキブリとチャバネゴキブリのダンジョン因子は、この武器にもってこいの高級品だった」
ゴミヤが集めた素材で、この武器を作ったって……。
でもそんなこと、あいつは一言も……。
「それにしても太っ腹だよ。モンスターが持つダンジョン因子は、それを討伐したクリーナーに所有権があるんだけど、彼はそれを放棄しちゃったんだから」
「ち、ちなみにそれ、売ったらいくらになるとかあるの?」
「んー、そうだなぁ。クロゴキブリにチャバネゴキブリ3体、それにあれだけの上質な物ともなれば、ざっと700万くらいかな」
「700万⁉」
う、嘘でしょ……。
700万って……えっ……?
「あ、そうそう。せっかくだし試し撃ちでも……って、大丈夫?」
全然知らなかった……。
まさかそんなことになってたなんて……。
「どうして何も言ってくれなかったのよ……」
しかもゴミヤって今、金欠のはずでしょ?
なのに大金をこんな……。
「おーい、ストリくーん」
「え、あ、うん」
「試し撃ち、していくよね?」
「試し撃ち……そうね、試し撃ちね」
ダメだ。全然思考がまとまらない。
とりあえず今は、目の前の事に集中しよう。
「こっちに的を用意してあるから、ついておいでよ」
あたしは、ケースを手にするセイサ博士に続いた。
案内されたのは、見るからに重厚な壁に囲まれた一室。
「あれが的?」
「そう。特殊な金属を何層にも重ねて作ってある」
一辺50センチほどの正方形の中心に、赤い印が付けられている。
距離は……大体20メートルくらいかな。
「早速あれを撃ち抜いてみようか」
「えっ、いきなり……⁉」
そう言ってケースを開いたセイサ博士。
「ほらほら、遠慮せずに」
「う、うん」
あたしは恐る恐る武器に触れた。
「この武器、凄く軽い……」
「当然。なんたって君の身体に馴染むように調整したからね」
手にしたL96AWSは、驚くほどに軽かった。
まるでずっと前から、あたしの身体の一部だったかのような。驚くほど手に馴染んでいて、不思議な安心感があった。
「それと、これも君に預けよう」
そう言うと、セイサ博士はあたしの耳に触れた。
「今付けたイヤリングに軽く触れてみてよ」
「こ、こう——?」
言われた通り、指でそれに触れた次の瞬間。
あたしの目元を覆うようにして、薄緑色のモニターが現れた。
思わず「うわっ!」と、大きな声が漏れる。
「こ、これは?」
「超万能仕様の精密モニターさ。これを使えば標的との距離、射撃によって生まれる偏差値、その他もろもろの情報を得ることができるんだ」
標的:××金属
高さ:0,55m
距離:22,5m
質量:257,85kg
速度:0m/s
赤いサークルに囲まれた的の情報らしい。
ロックオンみたいなものかな。
「それにこのモニターには、配信機能も備わってる」
「えっ、でもカメラがないけど」
「配信を開始すると小型のドローンが射出されて、君たちを撮影してくれる仕組みになってる。画質の心配もない」
つまりこれからは、スマホを使う必要もないんだ。
「ちなみにコメントは、ドローンによって適切な場所に自動で映し出される仕様だから、他のクリーナーのモチベーションにも繋がる」
「これってそんなに万能なんだ……」
もうここまでくると、凄すぎて引く。
「どうだい? 君にはもってこいの代物だろう?」
セイサ博士は、あくまで平然とそう言った。
スナイパーライフルに、配信機能付きモニター。
FPSゲーム配信者であり、ダンジョンクリーナーでもあるあたしにとって、これ以上にピッタリな装備はきっとない。
「ありがとう。凄く気に入った」
「喜んでもらえたようで何よりだ」
嬉しそうに微笑んだセイサ博士は、続けて的を指さした。
「では、実践と行こうか」
言われるがまま、あたしは銃を構える。
いくらリアルとは言え、使い方はゲームで何度も見てるからわかる。
「いいかい。ゆっくりと力を込めるんだ」
「力を……」
より一層神経を尖らせてみる。
すると身体を流れる気のようなものが、ゆっくりと銃に溶けだしていくのがわかる気がした。
あたしはレバーを引き、モニター越しにスコープを覗く。
そして、引き金に指を掛けた——。
バヒューン。
馴染みのある音と共に放たれた銃弾は、黒きオーラを纏っていた。
それは一直線に宙を駆け、20メートル先の的に直撃。
ドンガラガッシャーン——‼
耳を刺すような凄まじい爆音。
特殊な金属を何層にも重ねて作ってある。セイサ博士がそう言っていた的は、まるで果実が弾けるように木っ端微塵になった。
「ふっふーん! どうだいこの威力!」
「えっとその……」
なんて表現すればいいのかな……。
とりあえずこれ、スナイパーライフルとかそういう次元じゃないや。
「これがボクの最高傑作、”L96AWS ナイトメア”の力だ!」
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