第1章 不思議の国に迷い込んだおじさん④
【強欲の炭鉱】ダンジョン
百年以上前に放置された炭鉱がモンスターの住み処となったダンジョンで、棲み着いたモンスター達が勝手に拡張して現在に至る。ゴブリンとホブゴブリンしかいないため、数あるダンジョンの中でも初心者に最も向いているうちの一つだ。現在はギルド庁東北支部の管轄となっている。
ゴブリンを倒して得られるものはスライム同様、魔核のみで大きく稼ぐことは出来ないが、経験を積むのに適している。ゴブリンばかりで初心者に向いているので、ここらへんの冒険者はまずここで実績を積むのが定番となっているようだ。
「さて、一階層を歩いてみるか。」
初心者を卒業したら早々に次のダンジョンに行く冒険者が殆どのため、賑わっている様子はあまりしない。
二車線くらいの幅で天井高は三メートルくらいだろうか。そんなに高くないがアリの巣のように張り巡らされているのが分かる。
一階層へと降りていく。このダンジョンは五階層が最下層で、ホブゴブリンがボスとなっている。ボスを倒しても残ったゴブリンの中から一番強いやつが、ホブゴブリンへと進化するので、時間が経てばすぐに元通りになるリポップ状態なんだそうだ。
今日は一階層をお試しで進んでいくことにする。これまで使っていた棍棒はショルダーバッグにしまい、ショートソードを装備する。
初心者講習でショートソードの型を習ったが、実戦では初めてだ。これまでのスライムは棍棒で事足りていたし、地上では剣の使用を禁止されていたのだ。
「ようやく剣が使える。」
辺りに気をつけながら歩いていくと、棍棒を持った一匹のゴブリンが現れた。身長は一メートルくらいの緑色したモンスターだ。
「焦る乞食は貰いが少ないって言うしな。落ち着けよ、俺。」
そう呟いて俺は右手にショートソード、左手に盾を持ち、ゴブリンに向かう。
あちらも俺に気づいて、ギェギェッと叫びながら走ってくる。
ショートソードを振りかぶる。しかしゴブリンが盾で防ぎ、今度は奴が棍棒を俺に向かって振るってきた。
「フッ。」
息を吐きながら、剣筋を避ける。そして、下から掬い上げるようにゴブリンの首を狙う。
スッと吸い込まれるように首を薙ぐように切ることが出来た。
よし。今のはめちゃくちゃお手本通りの戦い方が出来ていた。
初心者講習では片手剣による壱ノ型から参ノ型まで教えてもらっている。上から振り下ろす壱ノ型、下から掬い上げる弐ノ型、レイピアのように突く参ノ型。
先ほどは壱ノ型から弐ノ型を繋げて上手くゴブリンを倒すことが出来た。
スライムの時も実感したけど、ゴブリンを倒すとまた感慨深いものがあるな。俺は冒険者になったんだって。
ただまぁ、感慨にふけるのもそこそこに、倒したゴブリンの心臓あたりの核を抜き取る。のんびりしているとまた次いつゴブリンが現れるか分からないからね。
「スライムから核を抜き取るのは簡単なんだけどなぁ。」
ゴブリンの心臓あたりから核を抜き出す。前の世界で狩猟免許を持っていたこともあって、捌くのには特に忌避感を感じない。けど、ビジュアルに難があるゴブリンは俺でもちょっとやりにくいな。そりゃ女性冒険者に限らずさっさと次に行きたい気持ちはよく分かる。
ゴブリンの死体は横によけておく。ゴブリンがいるところにはゴブリンの死体を食べてくれる虫が生息していてあっという間に土に戻してくれるのだ。ゴキブリみたいなやつが血の匂いに引き寄せられたのかあっという間にやってきている。
その後もゴブリンに次々に遭遇し、その都度落ち着いて対処することが出来た。もっと手こずるかと思ってたんだけどな。これは寿司職人とか天ぷら職人の修行の話みたいなやつなんだろうか。雑用をすることで基礎が自ずと身につくという。スライム千匹退治するのにもちゃんと理由があったのかと俺は感心した。
今日は一階層の予定だけだったが、こうスムーズに進むともっと先へと進みたくなるのがサガと言うもの。まだ身体的、時間的余裕があるので二階層に向かうことにした。
二階層で現れたゴブリンは一階層のゴブリンより少し強い程度で戦う分には問題なかったのだが、一匹で現れることは無かった。基本的に二人以上で連携して攻撃してくることが殆どで、余計に倒すのに時間がかかった。おかげで疲労度がハンパない。
五戦ほど対局したが、最後の方はちょっと疲れてしまって油断したところに一撃を受けてしまった。
「ウッ。」
腹に思いっきり喰らってしまい、ショートソードが手から離れてしまった。しかし、
「シールドバッシュ!」
「グギャッ。」
木の盾でゴブリンを吹き飛ばし、その間にショートソードを拾ってトドメを刺した。
「ふぅっ、危ないところだった。」
俺はゴブリンたちの核を抜き取ったあと、回復ポーションを取り出して飲んだ。怪我した時用の回復薬を買っておいて良かった。かなり高いので一本しか持っていないのだが、怪我した時に摂取すると身体の回復機能が急激に促進され、怪我が治るのだ。
「弓矢とか魔法とか使って不意打ちみたいなことが出来ると良いんだけどなぁ。それか仲間か。」
俺は思わず文句を言ってしまう。でも、かの犬の大先輩が言ってた。自分の持てる手札で勝負するしかないんだって。今の自分の状況をちゃんと理解して、最適な行動をすることが重要だ。
そのことを考えると、初めてのダンジョンでここまで進めたのは大収穫だ。浮かれてこれ以上進むとちょっとしたアクシデントで大怪我してしまいそうな気がする。
今日は二階層の奥まで行けたことを喜んでダンジョン探索を終了することにした。ゴブリンも全部で二十体は倒したと思う。また後日、しっかりと準備してダンジョンを攻略することにしよう。
辺りに気を配りながらダンジョンの入口まで戻っていくと、門番が出迎えてくれた。
「おっ、戻ってきたか。どうだった?」
「緊張しましたけど、なんとかなりました。またしっかり準備して挑戦します。」
「そうか。初級ダンジョンと言っても一人じゃ危険度も跳ね上がるからな。奥に行けば行くほどモンスターも強くなるし。慣れるまでは低層で実力を上げるのが良いぞ。」
門番が心配してアドバイスしてくれた。
「ありがとうございます。ではまた。」
俺はスクーターに乗ってギルドへと戻った。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
読んでくれてありがとうございます。
レビューや♡ボタンで応援よろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます