第10話 締めはお風呂で
やたらと懐いてきたスライムがトイレから這い出て来たモノだと分かってしまった俺は「ばっちいから」と思わず拒否してしまったが、当のスライムは不満げに体を揺らしている。
「なんだ? 怒ったのか?」
『ピィ!』
「いや、そうは言うけど……俺のシッコが掛かったんだろ?」
『……ピ』
「だから、そういう訳だから……ま、コレばっかりはいくら異世界でも譲れないな。いや、異世界だからこそ、衛生観念は強く持たないとダメだろ。だから、お前も……ん?」
いくら俺がシッコを掛けた本人としても、排泄物が掛かったと分かっているのに平気ではいられないから分かって欲しいと話すが、黙って聞いていたスライムの様子がおかしいので、ジッと見ていると発泡酒を開けると自分の体にバシャッと掛けてしまった。
「あ~お前、なんて勿体ないことを……え?」
『ピピッ!』
「ふむ、そういうことか。いや、でもなぁ~」
『ピィ~』
俺は発泡酒を自ら頭? に掛けたスライムを見てなんとなくだけど、スライムが何を言いたいのか分かった気がする。
スライムに掛かった発泡酒はスライム自身と回りをビシャビシャに濡らしてしまったのだが、スライムがその上を通ると、そこは初めから何もなかったかの様に乾いていた。スライム本体も同じで濡れている様子はない。
そんな風にスライムは俺のシッコは掛かっていないだろうとでもどこか得意気だが、そうじゃないんだよ。いくら、乾いたといっても俺のシッコが掛かったと言う事実は消えないからとスライムにも分かる様に説明しようとしたところで、スライムも雰囲気が伝わったのか、少し悲しそうに見える。
「あ、そうか! 汚れたのなら、洗えばいいんだよ! って、どこでだよ!」
『ピ?』
「いやな、俺のが掛かって汚れたのなら、洗えばいいだけなんだけど、洗う場所がないと思ってな。ん~ないなら、作るか。ちょっと待てよ」
『ピィ!』
俺はもしかしたら魔法で出来るかもと少し離れた場所に高さ三十センチメートル程のバケツをイメージしてから、魔法を発動する。
「先ずは魔力を手の先に集めて、水が漏れないように土……いや、ここは岩だな。岩で出来たバケツだ。よし、イメージは出来たから……『
俺は足下に作ったバケツを見ながら、今度はどうやったらお湯が出るだろうかと考える。
「先ずはあったかいお湯をイメージして……『
『ジョボジョボ……』
音はともかくとして俺は自分の手元から熱湯が出るのを見ながら、魔法が成功したのを実感する。
「どれどれ……うん、ちょうどいいかな。ねえ、洗うからこっちに来てよ」
『ピ!』
俺はバケツに手を突っ込み、お湯加減を見てからスライムに近くに来るようにお願いするとスライムはぴょんぴょん……いや、ポヨンポヨンだな。ま、どっちでもいいが、スライムは体を弾ませながら俺の足下にやって来たので、俺はスライムの体を抱えてから「暴れるなよ」と声を掛け、バケツの中へと身を沈ませる。
『ピ? ……ピィ~~~~~』
「お、分かるか? お風呂の気持ちよさが分かるとは、ひょっとしたらお前の前世は日本人なのかもな」
ひょっとしたらスライムの体がお湯に溶けてしまうんじゃないかと心配だったが、それは杞憂に過ぎなかった様で当のスライムは気持ち良さそうに浮いている。若干、体が平たくなった様な気はするが、弛緩しているだけだと思いたい。
さて、そんな風に気持ち良さそうに浮いているスライムを見ると、俺も風呂に入りたくなる。やはり一日の終わりには熱い風呂、そして風呂上がりの一杯だろと、日本人なら当然だよね。
さすがにバケツはムリなので、さっきの要領で今度は人一人が足を伸ばせるくらいのユニットバスの浴槽をイメージしてから、岩魔法で作る。
「うん、上出来! じゃあ、今度はお湯を溜めて……」
少しでも早く溜まるようにと両手を使ってジャバジャバとお湯を出し続け、浴槽の縁ギリギリまでお湯を張ったところで、魔法を止める。
「タオルはないけど、まいっか」
俺はスーツ、下着に靴下と身に着けている物を脱ぐと「そうそう忘れない内に」とそれらにクリーンを掛け、インベントリに取り込めば『
「だよな、やっぱ風呂は必要だよなぁ~」
『ピィ~~~』
石鹸はないので、余り行儀がいいことではないがと思いつつ、浴槽の中で頭や体をゴシゴシと手で拭えば、スライムも俺の動きを真似して伸ばした触手で本体をぬらりぬらりと触る。
「なあ、もしかしてだけどさ。お前なら、俺の垢なんかも食べられたりするのかな?」
『ピィ!』
「そうか、ならやってもらおうかな」
『ピ!』
俺の呟いたことが分かったのか、バケツの中のスライムが俺に向かって触手で敬礼したと思ったら、バケツから飛び出し、俺の浴槽へとダイブしてきた。
「お、おぉ……なんか凄いな。じゃあ、頼めるかな?」
『ピ!』
スライムは俺のお願いに対し、触手を頭まで伸ばすと表面積を広げて頭全体を包み込む。
「頼むぞぉ。毛根は死滅させないでくれよぉ」
『ピ!』
「あぁ~なんか気持ちいいな。もしかしてマッサージとかしてくれちゃったり?」
『ピピィ!』
「そうか、さっきお前のことをばっちいとか言ったのにありがとな」
『ピ!』
「ふふふ、なんとなくお前の言いたいことも分かるような気がしてきたぞ」
『ピィ!』
「そうなるといつまでもお前じゃダメだな」
『ピ?』
「名前が必要だろ。ん~トイレから来たからベン……お! ダメか」
『ピィ!』
スライムの性別は分からないけど、トイレから来たからベンでいいだろと思ったが、スライムは納得がいかないらしく頭に広げていた触手をキュッと絞ってきた。
「ベン……いい名前だと思ったんだけどな……気に入らないのなら……セツ、そうだ! セツはどうだ?」
『ピィ~ピピピィ~』
「そうか、気に入ったか。じゃあ、お前は今からセツだ」
『ピ!』
「え?」
『ピ?』
俺がスライム本体を撫でながら、「今からセツだ」と言った瞬間に俺とセツはまばゆい光に包まれた。そしてそれと同時にセツとの間に何か線の様な物で繋がった感覚があったので、「何がどうしたんだ?」とステータスを確認すると『従魔:セツ(エレメンタル・スライム)』と表記されていた。
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