第2話 人恋しくて

 一体のゴブリンが俺に消滅させられたことに気付くこともなく、ずっと棍棒を降り続けている二体のゴブリンに対し『箱詰めボックス』と呟けば、二体のゴブリンは棍棒を振り上げたままの形で見えない何かに固定され閉じ込められる。


『『……』』

「へぇ、声も漏れ聞こえないんだ。ま、そりゃそうだよね。完全に密閉するようにしたんだから」

『『……』』

「ん?」


 俺はまだ『障壁バリア』の内側から、『箱詰めボックス』で閉じ込めたゴブリンの様子を観察していたら、緑色だったハズのゴブリンの顔が段々と青くなり、終いには紫色っぽくなり白目になる。


「あ~やっぱり肺呼吸なんだね。ナムナム……」

『『……』』


 死んだとは思うが、何分くらいで絶命するかも不明なので『消滅デリート』と唱え、二体のゴブリンを消し去る。


「これでとりあえずは安全かな。でも、俺を初めて見初めてくれたのが雌ゴブリンだとは……うん、早く忘れよう。って、いうかこっからどこに行けばいいんだ?」


 とりあえずの驚異が過ぎ去ったので、これからどうするかを考える。まずは人が恋しい。今、俺がいるのは草原であり、獣道すら見当たらない。


「どこに行けばいいんだ? 日が暮れる前になんとかしたいんだけど……また、変なのに襲われる前に」


 どうしたものかと途方に暮れ、暫く腕を組み立っていたが「ま、やってみますか」とまた空間魔法ならではの使い途を思い付いたので試してみることにした。


「『空間把握!』……っと、ちょっとキツいな」


 そう呟いた瞬間に何かが体内からごっそりと持って行かれた感覚に立ちくらみを覚えるが、なんとか踏みとどまると、頭の中に何かが流れ込んでくる感覚に襲われ、吐き気を催す。


「ゲェ~」と胃の中の物を吐き出し、少し楽になったところで、手に持っていたコンビニ袋から発泡酒を取り出し口の中に流し込む。


「ぷはっ! なんだったんだ……最初の虚脱感は魔力が持って行かれたんだろうな。で、さっきの二日酔いにも似た頭痛は……コレか!」


 発泡酒を流し込み、なんとか気持ちを落ち着かせて考え、自分自身で納得したところで、頭の中にさっきの答えが浮かび上がる。


「あ~だから、一気に持って行かれたんだな。こりゃ、便利だけど気を付けないと死ぬな」


 さっきの無理矢理に頭の中に詰め込まれた感覚は、試しにとやってみた『空間把握』の結果から得られた地図だった。


 要は範囲も指定しないまま『空間把握』を試行したものだから、持てる魔力を全て使い切り、結果として周囲三十キロメートルほどの地図が頭の中に流し込まれたようだ。その為に脳がオーバーヒート気味になり二日酔いに似た感覚に陥ったのだろうと納得する。


「で、自分がここにいるとして、目指す位置は……」


 俺は脳内に広がる地図を見ながら、街道と思われる先にある小さな村を目指すことにした。


 出来れば街がよかったが、展開された地図にはソレっぽいものはなかった。だから、先ずは人に会うことを大前提に小さな村を目指すことにしたのだ。


「さて、人に会うのならコレはここにあっちゃイケないモノだよな。なら、『収納』。おぉ!」


 俺はインベントリも使えると考え、手に持っていた鞄とコンビニ袋をインベントリに収納するイメージと共に『収納』と呟けば、手に持っていたものは消え、脳内には『通勤鞄』『コンビニ袋(発泡酒二本、空き缶、おにぎり(ツナマヨ、梅干し))』と表示された。


「へぇ~なるほどね。じゃあ、試しに……」と、その辺に転がっている石を収納すると『小石』と脳内のリストに追加された。


「面白い! じゃあ、次は……コレ!」

『ヒール草(不完全)』と表示されたのに驚く。


「あれ? 『ヒール草』? ってことは、もしかしたら、もしかする? でも、不完全ってのはどういうことだろ?」


 さっき適当に引っこ抜いた草を収納してみると『ヒール草』と説明があったが、その状態には『不完全』とあった。


「不完全? もしかして、無理に引っこ抜いたから? なら、試しに……」


 今度は引っこ抜かずにさっきと同じ草を地面に生えた状態で収納してみると『ヒール草』とあり『不完全』の表記は無くなった。


「やっぱり、根っこも大事だったんだ。でも、一本ずつ抜くのは面倒だな」


 ラノベでは下っ端冒険者のお約束とも言える薬草の採取依頼だが、俺の空間魔法を使えば完全な状態で採取出来ると考えるが、一本ずつとなると結構面倒だなと考える。


「なら……」と十メートル四方を範囲指定しヒール草のみを収納する様にイメージしてみる。結果、『ヒール草五十七本』とあり、俺は思わずほくそ笑む。


「よし、ならこの辺のを纏めて……『収納!』『収納!』『収納!』」


 目に見える範囲を収納していった結果『ヒール草百五十六本』となったので、採り過ぎもよくないかと暗くならない内に村を目指すことにした。


「さて、目指すのはいいけど、歩くのも走るのもイヤだな。遠すぎるし……ってことで『転移!』、そして『転移!』」


 俺は空間把握で周囲に人らしき気配がないことを確認しながら転移を繰り返し、やっと村の入口が見える所まで近付いた。


「よし、なんとか日が暮れる前に辿り着いたぞ。後は無事に入れるかどうかだけど……大丈夫だよね?」


 目の前に見える村の門……門と呼ぶには垣根の側に槍を持った見張りらしき人が立っているだけなんだけど、大丈夫だよね?

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