第7話 組織図
顔合わせの翌日、暁は休みの龍とミツに連れられて警察署内を案内してもらっていた。基本的に部外者立ち入り禁止のため、実務部隊長の息子といえど敷地内に入ることはできなかったのである。
「あれが実務部隊棟、あれが後方支援部隊棟、あれは全隊員を収容できる講堂、あっちはジム入りの体育館で…」
その他にも食堂、スーパー兼コンビニのような店、訓練場は5つもあった。ちなみに寮は男女別棟である。
3名は敷地内をぐるっと散策した後、食堂でご飯を食べながら話すことにした。
「人妖警察の組織図は大丈夫だよな?」
「はい」
人妖警察は日本全国で統括本部と7つの支部に分かれている。ここはその支部の1つ、北海道人妖警察署だ。部隊は実務部隊と後方支援部隊に分かれ、それぞれ実務部隊長と後方支援部隊長がいる。さらにその2つの部隊をまとめるのが支部長で、支部の最高責任者である。
また、実務部隊には7つの小隊がある。それぞれ「い」、「ろ」、「は」、「に」、「ほ」、「へ」、「と」と名付けられ、各小隊は小隊長が指揮を執っている。小隊は基本的に24名4班と副隊長バディと小隊長バディの4名で構成されており、合わせると1小隊28名だ。
ちなみに小隊長の上は実務部隊長である。中隊長、大隊長は常設しておらず、必要に応じて小隊長の中から臨時で選ばれる時があるが、よほどの大きな事件がない限りはそんなことにはならない。
余談だが、暁が所属する龍の班は小隊「と」に属している。
「じゃあシフトの説明も割愛して良いか?」
「大丈夫です」
実務部隊は3交代のシフト制で、8時から16時までの朝勤、16時から0時までの夕勤、そして0時から8時までの夜勤に分かれている。シフトは5勤2休が基本で、時間帯は5日間とも同じだ。大体が朝、夕、夜の順番でローテーションしている。例えば夜勤なら5日間夜勤を連続で行なった後に2日休んで次の朝のシフトの時間帯に身体を慣らすといった感じである。
ここら辺の知識は冬真から教わっているので問題なかった。
「はじめは戦闘訓練ですか?」
暁は明後日の4月1日から入隊して勤務開始だ。8時から後方支援部隊棟で入隊手続きを行うとしか聞いておらず、その後のスケジュールを把握していなかった。
「そうだ。入隊手続き後に第5訓練場に集合してくれ。それからはひたすら戦闘訓練を行う」
「組んだばかりの班だからな。特に我々は暁たちの戦闘スキルや癖を知らない。まずはお互いの手の内を見せ合う必要がある」
「個々の戦闘スキルはもちろん大事だが、班となると各々が得意の戦闘分野を活かしつつ連携して戦闘を行なうのが定石だ。そのために予めフォーメーションや役割をある程度決めておく必要がある」
冬真との修業はあくまでも個人技をひたすら伸ばしていたので、チームプレーとなると心配だ。
「どれくらいの期間やるんですか?」
「小隊長が監督に着くから、小隊長の許可が出るまではずっと戦闘訓練だ。俺の見立てでは早くて2週間、遅くて1か月くらいだと思う」
かなり幅のあるスケジュールである。
「もともと我々はずっと4名で仕事に従事していたのだ。そこの連携は円熟している。後は暁たちを入れてどのように連携を取っていくかなのだが、暁が新人であることを考えるとどれくらいで小隊長の許可がおりるのか見当がつかないのだ」
「…足引っ張らないように頑張ります」
「大丈夫だ、暁。はじめは誰も上手くできない。そのための訓練なんだ。俺たちの胸を借りるつもりで沢山練習すると良い」
「ありがとうございます」
心優しい先輩方で暁もほっとした。
「さっきの話にありましたけど、4名で班活動ができるんですね」
「いや、4名じゃ班活動はできない」
龍もミツも渋い顔をしながら説明してくれた。
龍とミツ、綾女とシロは班員が足りていなかったため通常の班活動は行えず、基本的には他の班のフォロー役として仕事に従事していたらしい。およそ3年間、4名は臥薪嘗胆の思いで活動を続け、そして今回、新人が入ってくると聞かされたときはこれで人数が揃うと皆で大層喜び、その新人が実務部隊長の息子だと聞かされた時は皆で大層驚いたそうだ。
(あれそれって俺に対するハードルかなり上がってない?)
暁は一抹の不安を覚えた。
「あのー、俺、龍さんやミツさんが思っているほどデキた奴じゃないっていうか、その、筆記の点数は良くなかったんですよ」
あまり期待されても困ると思った暁はやんわりハードルを下げる試みに出た。
突然のカミングアウトに龍もミツも笑っていた。
「そうか、成宮実務部隊長に教わっても筆記は苦手だったか。何だか安心したよ」
「うむ。何でもできると言われるよりよほど愛嬌がある」
ひとしきり笑った後、龍が真面目に話し始めた。
「確かに俺たちは成宮実務部隊長の息子が入ると聞いて驚いた部分はある。しかし、3年間待ち続けた新人がようやく入ることの方が嬉しかった。勿論期待していないわけではないが、先ほど言った通り、俺たちは先輩として新人の君に胸を貸せるはずだ」
逆に教えられることもあるかもしれないがと龍は付け加えた。
「君が俺たちの班に入ってきてくれて嬉しい」
「心から感謝している」
「あ、ありがとうございます、これからよろしくお願いします!」
等身大で見てもらえていることが暁にはとても嬉しかった。
ほっとしたら思い出したことがあった。
「そういえば、俺のバディのことは何か聞いていますか?」
「いや、明日来るとしか聞いていない。なんでも幽世からこっちに異動してくるらしい」
「え?幽世から?そんなことあるんですね」
「ないわけじゃないだろうが珍しいと思う。妖怪の隊員なら現世にだっているはずだからな」
「我々も狐の妖だということ以外、詳しいことは聞かされていないのだ」
「そうなんですね」
他にも何かバディの情報を聞けると思っていたので、少し残念だった。
「明日かぁ」
暁はまだ見ぬバディと会うのを楽しみにしていた。
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