モブに転生したら、ペットの柴犬が裏ボスに転生してました~最強ドラゴンと求めるほのぼの学園ライフ!!~

こがれ

第1話 裏ボスの前世は食パン

 『クロード・モブダーソン』はモブである。名前の通りにモブである。

 モブと言うのは比喩表現ではない。

 

 クロードの前世は日本に住んでいた冴えない青年。

 ゲームが趣味であり、この世界のことも知っている。

 この世界は『ファイナル・ドラゴンズ』というゲームの世界だ。

 『ファイナル・ドラゴンズ』は学園青春ファンタジーRPGであり、魔法学校に通って冒険や恋愛を楽しむゲームだ。


 そして、クロードはゲームに全く登場しないモブキャラである。

 いや、もしかしたら背景にチラッと描かれていたりしたのかもしれないが、そんなのは誰も覚えていない。


 さらに、モブらしく剣や魔法の才能も全くなし。

 全くできないわけでは無いが、秀でているわけでもない。真ん中より少し下くらいの才能だ。


 さらにさらに、『モブダーソン家』は片田舎の貧乏男爵家。

 生活に困窮しているわけでもないが、贅沢が出来るわけでもない。

 ゲームの主な舞台となる魔法学校では、よくいる田舎貴族でしかない。


 まさにモブオブモブみたいな存在だ。


 最初は主人公ではなくモブに転生したことにがっかりしたクロードだったが、これはこれで良かったと切り替えた。

 なにせ主人公には世界を救う使命が課せられる。

 ただの地味なゲーマーだった男に、そんな重荷を乗せられても困ってしまう。

 それよりも、モブとして控えめにファンタジー世界を楽しむ方が性に合っていると考え直した。


 しかし、そんな第二のモブ人生もここで終わりそうである。


「こ、こいつ……なんでこんな田舎にこいつが居るんだよ……」


 クロードの前にそびえるのは巨大なドラゴン。

 小高い丘のような巨躯。真っ白でメカメカしい外殻。

 その姿には嫌というほど見覚えがある。


 このドラゴンは『ファイナル・ドラゴンズ』の悪名高い裏ボスだ。

 通常攻撃は全体攻撃で四から五回の連続攻撃。しかも、一発一発の攻撃に即死効果付き。

 それだけでもヤバいのに、数ターンおきに飛んでくるブレス攻撃の火力はバカみてぇで、即死効果なんて無くても即死するようなバ火力をしている。

 さらに極めつけが頭のおかしいほど盛られた体力、その数値は一億。

 ちなみにプレイヤー側が出せる攻撃の最大威力は約一万なため、少なくとも一万回は殴らなくてはいけない――前述したような即死級の攻撃に耐えながら。


 そんなクリア不可能とも思える裏ボスだが、唯一の救いは戦闘から逃げられること。そして逃走後もボスの体力は引き継がれることだ。

 つまり、そもそも一度の戦闘で倒すようなボスとして設定されていないから、盛りに盛った性能をしていたのだ。


 そんな化け物が、クロードの目の前に居る。

 魔法の特訓でもしようと、家から少し離れた森に入ったら、空から降りて来たのだ。

 なぜか、ドラゴンはジッとクロードのことを睨んでいる。

 かつて読んだ設定資料集によると、この裏ボスは世界とあらゆる生物を憎んでいるらしい。

 きっとクロードのことも気に入らないのだろう。


 当然ながら、現実には逃げるコマンドは存在しない。逃げようとした瞬間に、その即死効果の付いた大きな足でプチっと潰されるかもしれない。

 あるいは、一瞬で城を消し飛ばすようなブレスで蒸発させられるかもしれない。

 もはや選択肢は無い。ゲームオーバーである。


「さようなら、父さん母さん。この年まで育ててくれてありがとう……どうか、すぐに逃げて無事に暮らしてくれ……」


 人生を諦めて、誰にも届かない遺言を残していた時だった。

 ぺかー!!

 ドラゴンが神々しい光に包まれた。

 このまま何らかの攻撃で消し飛ばされる。

 そう覚悟したクロードはジッと目をつむり、最後の時を待った。


 しかし、待てども人生の終わりは訪れない。

 何が起こっているのかと、クロードが薄っすらと目を開ける。

 もふん。

 クロードの目に飛び込んできたのは白い毛玉だった。


「うわぁ⁉ なんか顔に張り付いてきたぞ!?」


 白い毛に顔が覆われる。

 慌てながらもその毛玉を引きはがすと、クロードの手に抱かれていたのは白いふわふわの毛に覆われた小さなドラゴンだった。


「え、なにこれ……もしかして、裏ボスのドラゴンか……?」

「がうがう♪」


 ドラゴンはピーピーと嬉しそうに鼻を鳴らし、ぺろぺろとクロードの口を舐めてきた。


「わぶ、なんで口を舐めるんだ。お、俺は美味しくないぞ……ってあれ? なんか懐かしい感触だな」


 ドラゴンはぺろんぺろんと顔中を舐めまわしてくる。

 その感触が妙に懐かしい。

 顔を舐めまわされながら考えていると、びりっと前世の思い出が浮かび上がった。


「お前、もしかして『ショパン』か⁉」

「がう!」


 白いドラゴンは、『そうだ!』と肯定するように首を振った。

 『ショパン』はクロードが前世で飼っていた柴犬の名前だ。

 ショパンと言うとカッコいいが、名前の由来は『食パン』である。

 食パンにそっくりだったので、そう名付けた。

 

「そうか……お前も転生しちゃってたのか」


 前世でショパンは小学生のころに貰われてきた。それからは共に成長して、死ぬときまで一緒だった。

 クロードの前世での死因は交通事故だ。

 信号を無視して突っ込んできた車に轢かれて死んだ。

 ショパンはクロードを助けようとしてくれたが間に合わず、共に轢かれてしまった。

 まさか同じように転生しているとは思わなかったが、こうして再会できたのはせめてもの救いだろう。


「また、一緒に暮らそうな」

「がう」


 びしびしと振られた尻尾がお腹に当たる。

 クロードはショパンを抱きしめながら帰路へと付いた。

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