ガンシンク・クインテット

ツクモ@ニシタニ&ツクモクリエイティブズ

彼女にとってのエンドロール、あるいは本当のプロローグ

第X話 『転生症候群』



「『転生症候群』……ですか」

「この世界では脳波とCTで計測を行い、通常存在し得ない前世の記憶を持っている人に対して、使命や困難などが与えられる病気『転生症候群』を診断している。君は少なくとも一つ、もしかするといくつか、前世の記憶を持っていて、今までにそういう病気を患ってきたね?」

「――はい。今までも『転生症候群』でした」

「…………」


 カルテを見る女性医師。血液検査の血糖異常値、そして少女の脳構造を撮ったCT画像に目を落とした。そこにはいびつに形成された脳が写っている。


「前の世界を教えてほしい」

「最初の世界は、漠然としていて、思い出せません。ただ、私はオートマチコAutomaticoM1918という武器をもって塹壕ざんごうに突撃していました。第一次世界大戦と呼ばれる世界を巻き込んだ戦争に駆り出されていました。イタリア山岳地帯での戦闘でした。この世界には無い武器かもしれませんが、少なくともそれが私のルーツであり、転生症候群の始まりです」

「その次は」

「次ももうあやふやです。親友の子が世界を変える力を持っていました。私はその子が自由に生きていけるように、仲良くなった男の子と一緒に短機関銃を持って悪の組織と戦い、そして死にました。これが二度目」

「三度目は」

「私は今と同じように女子シューター部の部長を務めていました。深深度フルダイバーと呼ばれる女性特有の能力を持つ特別な男の子と一緒に、とても楽しい時間を過ごしました。男の子は私の親友を含めてハーレムを形成しましたが、私は生来の糖尿病の悪化により最後の大会の後、死亡しました。次が前世です」

「前世」

「前世は……好意以外の感情を読み取れる男の子を司令官に迎え入れて、女子シューターゲーム部活動を興しました。親友の女の子は心に障害を抱えていて、男の子とのやりとりにも苦労しましたが、やがて日本を飛び出して、世界で有数のチームにまでなりました。それを見届けた後に、私は糖尿病による心臓発作によって死亡しました」

「そうか……辛かったね」

「良いんです、それが『転生症候群』なのでしょう?」


 先生はそれを丁寧に、カルテに記していく。


「戦い、短機関銃、名前、口癖、シューター、親友、ハーレムを形成する男の子、糖尿病を含めた内部障害、そして死亡……。なんとなく感づいているとは思うけれど、『転生症候群』は要素を結合して転生を続けていく、輪廻的な病気だ。この病気は『あなたがあなたの物語を何らかの形で終わらせないと、来世で再発する』病気なんだ」




「この世界でも――私は、戦うために生まれてきたのかもしれません」




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