ホノコのまよい家
森野フミヤ
第1話 まよい家
わたしは白い建物に入りました。巨大な木造建築の扉が、きいいと音を立てて開きます。建物に入ると、半透明の人々がたくさんおられました。白髪の、老年の男女が多いのですが、皆まるで虚空を見つめるように、ぼうっと
わたしはきっと、たいへんな場所に迷い込んでしまいました。
恐る恐る足を進めると、ひとつの物体が私に話しかけてきました。赤いイノシシの顔をしたニンゲンでした。不気味な生命体だなと思います。白くゆとりのあるワンピースのようなもので全身を覆い、腰には紫の紐を巻いて
「やい、おまえやおまえ。」
赤猪はわたしに勢いよく話しかけてこられます。迫りくる巨体は、私の身体を二倍ほど大きくしたみたいでした。思わず怖くなって、身がすくんでしまいましたが、赤猪は穏やかな表情で、わたしの話しかけます。
「おまえ、見ない顔だな。」
赤猪は言いました。
「おまえのような若く美しいニンゲンの娘が、どうしてここに迷い込むことがあろうか。」
「さ、さあ。私にもよく分かりません。」
「ははは、まあよいのだ。それよりも美しき若い娘、どうだ、この
「いいえ、それは結構です。」
「ニンゲンであるとて
「はい。」
きっぱりと言いました。
「ははは、それは残念。」
「あの、イノシシさま。」
「おう?」
わたしは勇気をもって赤猪子に話しかけました。
「わたしはどのようにここに来たのか分かりません。ゆえに、ここからどのように帰ればよいのかも分かりません。いったい、どうすればよいのでしょうか。」
「困ったことだな。」
赤猪子は首をかしげ、じっと何かを考えます。そして、このように言葉を発せられました。
「ここは神々の住まう
「哀れで醜いニンゲン……ですか。」
「そうだ。神々におんぶにだっこで、自らの手で世界を動かすことのできない、哀れな者どもである。そういう自分のことしか考えないニンゲンたちだ。」
「しかし、彼らだって生きております。」
「ははは、やつらは生きることをやめた。しかし死ぬことも怖いのだ。だから神に、仏に助けを求めるのだ。どうか自分たちを救ってくれと。なんと自分勝手は言い分か。」
「ニンゲンなんて、そんなものでしょう?」
「ははは、確かにそうかもしれないな。所詮人間なんて言うのは、自分で運命を動かすことのできない、ただ流されるままに生きるだけの、哀れな生き物なのかもしれないな。」
「ひどい、見損ないますよ!」
私が語気を強めた時でした。美しい女性の声と共に、まるで館内アナウンスのように響き渡る声がありました。
「ピンポンパンポーン。三十五番の方、四番のお部屋へどうぞ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます