最強の悪役貴族に転生したので、続編世界でモブども相手にフルボッコ無双しようとしていたら、溺愛系ブラコン義理姉やパーティー追放された女の子たちが離してくれなくなった

鳴海衣織

1.通常エンディング転生




「魔法封じられた魔法使いなんざ、クソ雑魚過ぎてなんも怖くねぇわ! とっとと失せやがれ!」



 春の暖かい日差しが降り注ぐ王都南門から外へと追い出された。

 下卑た笑い声を上げながら、地面に倒れた俺を見下ろしてくるクソみたいな門衛二人。


 俺は南門ゲートを出入りする旅人たちの好奇な視線を浴びながら立ち上がった。

 服についた土埃を手で払いながら、顔だけ振り返って後方を一瞥する。


 門衛クソどもは相変わらず笑っていたが、どうやら俺の本当の恐ろしさを知らないらしい。

 奴らは魔法が使えなければと言っていたが、俺は別に魔法使いなどではないのだ。


 一流の魔法使い並みに魔法が使えるただの剣士に過ぎない。

 ゆえに、その気になれば指先一つでダ……けちょんけちょんにできるだろう。



「まぁいい。勘違いしてくれてた方がありがたいし、そもそも、勘違いしてくれたからこそ、俺は断罪されたにもかかわらず、こうして生き延びられたんだからな」



 俺は口元を歪めて嘲笑った。


 ――元伯爵家嫡男のジークフリード・オルフェリンゲン。


 それがこの世界に転生した俺の名前だった。




◇◆◇




 終末世界ラストアルマゲストというゲームがある。


 このゲームは俺が知っている限り、全部で七作ぐらい作られたシリーズもので、日本だけでなく世界中で発売されたことでも知られていた。


 前世、最後どうやって死んだのかは覚えていないが、どうやら俺はそんなゲームの一作目世界とそっくりな世界に転生してしまったらしい。


 しかも、前世の記憶が蘇ったとき、なぜか俺は城の地下牢に捕まっていた。


 ジークフリードとして生きた十数年間の記憶もなんとなく持ってはいたが、混乱していて状況がよく飲み込めなかったので、仕方なく近くで牢番していた兵士から色々事情を聞いてみた。


 その結果、どうやら俺はその一作目世界に出てくるラスボスと同じ名前だということが判明したのである。


 更に、自分の置かれた状況を鑑みるに、どう考えても『あの世界』に転生したとしか思えないような状態だった。


 あのゲームはシリーズ通して同じ世界で物語がつづられる。


 一作目の舞台は今現在俺がいるグランツバルト王国で、冤罪の果てに王国側に両親を殺されてしまった元伯爵家の少年ラスボスが、復讐のために立ち上がり、策謀を巡らせながら王国を滅ぼそうとする。


 それがシナリオの大まかな流れで、その末に主人公側に倒され命を落とすという筋書きになっていた。


 しかし、実はこの一作目世界には大きな特徴があって、それが真エンディングと通常エンディングの二種類が用意されているということだった。


 どういうことかというと、このゲームには課金要素があるのだ。


 もし課金してそのときに手に入る課金アイテムを使って倒した場合には、戦闘終了後、ラスボスはその場で死亡し、真エンディングが流れる。


 課金しなかった場合には通常エンディングが流れる。


 通常の方は戦闘終了後にゲーム内主人公たちに取っ捕まって、史上最悪の魔法使いと称されるラスボスの一部能力が破壊された他、魔法だけが封じられる。


 その上で弾劾裁判が行われ、国外追放された挙げ句に野垂れ死ぬという流れになっていた。


 ――そう。


 まさしく牢に捕まっていた俺は、その通常エンディングルートの真っ最中だったというわけだ。

 だから最初、このエンディングシステムのことを思い出すまでは、



「断罪される直前に記憶取り戻すとか、オワコンじゃね?」



 とか思ったけど、すぐさま、



「これって最高のパターンじゃね?」



 と考え直したのである。

 だって、牢に入れられていて、魔法封じの呪いをかけられていたということは、野垂れ死なない限り死ぬことのない通常エンディングの真っ最中だったということなのだから。


 しかもつい先刻、追放されたということは、既にエンディングを迎えたあとだということだ。

 これが何を意味しているのか。



「ふっふっふ……あはははは!」



 俺は王都から追い出され、ひたすら街道から外れた草原を南進しながら、思わず笑ってしまった。



「王国の諸君。追放してくれてありがとう! 俺は立派に生きていくよ!」



 ニヤニヤが止まらなかった。


 課金要素がこの世界にどのように反映されているのかわからないが、もし本当にこの世界があのやり込んだシリーズの一作目世界で、なおかつ転生した俺がそのラスボスなのだとしたら、もしかしたらあそこに行けばあれが手に入るかもしれない。


 俺が生きているということはつまり、主人公サイドはあの最強課金アイテムを手に入れていないということの証なのだから。



「ふふふ。こんなところで途方に暮れてなんかいられないぞ? 魔法を封じられた今の俺は、ただの凄腕剣士なだけだからな。是非ともあれを回収しなくては!」



 武器もないし食料もないし、このままだと本当に野垂れ死ぬ。

 しか~~し!

 俺にはゲーム知識がある。

 これは何よりも素晴らしい武器になる!


 何しろ、俺が知っているだけでも、この世界を舞台としたシナリオはあと六つも存在しているんだからな。

 しかも、そのシナリオすべてを俺は知っている。

 そんなもの、元ゲーマーであるこの俺が見て見ぬ振りなんかできるはずないっしょ。



「前世の記憶取り戻したときには一瞬絶望しかかったけど、こんな素晴らしい状態で転生できたことを、今はむしろ感謝しないとだな」



 シナリオを知っているということは、この先の人生、色んな局面でいい思いできるかもしれないってことだろうしね。



「ふっふっふっ。待っていろ、世界よ! 一作目世界はあれだけど、元ゲーマーとして、二作目以降の世界を思いっ切り楽しんでやるからな!」



 誰もいないだだっ広い草原で一人天に向かって叫ぶ俺。


 一作目ラスボスであるこの俺が、二作目主人公に成り代わって二作目ラスボスをぶっ飛ばしてヒーローとなる。

 その上で大勢の人たちからチヤホヤされたら最高ではないか。

 くぅ~! 考えただけでもわくわくしてくるぞ!


 ――だけどその前に。


 課金アイテム回収もそうだけど、まずは食料と武器の調達だな。

 あのアイテムがある場所には敵もいるのだから。



「てなわけで、とりあえずあそこに行きますか。盗賊団のアジトに」



 ゲーム終盤に訪れる討伐クエスト。

 もしまだ主人公たちがほったらかしにしていたらそこに盗賊たちがいるだろうが、いなかった場合には楽に食料などが手に入るかもしれない。



「よし! やってやるぞ! 色々思うところがないわけではないが、こんな世界に転生してしまったんだ。何が何でもあれを回収して、俺はこの新しい人生を満喫してやる!」



 俺は一人大笑いしながら、魔法使いとは思えない速度で草原を駆け抜けていった――まぁ、魔法使いじゃないんだけどね。




◇◆◇




 そんなわけで、ひたすら走り続けた俺は、ほどなくして目的地に辿り着いた。

 王都南に広がる大森林付近に根城を構えている盗賊団のアジト。


 そこは王国南に広がるロマーナ大森林のたもとに作られた、みすぼらしい掘っ立て小屋などがいくつも建ち並んでいる場所だった。


 確かここは元々はただの村だったはずだが、盗賊団によって滅ぼされ、そのまま奴らの本拠地になったのだとか。



「ん? おいおい……まだ普通に生きてるじゃんか」



 アジト手前にあった巨大な岩の陰に隠れて様子を窺っていた俺。

 そんな俺の遙か前方には、家々の合間をうろついている薄汚い連中がうじゃうじゃいた。


 どうやらこの世界では、クエスト未消化状態でラスボスを倒しにいってしまうようだ。


 まぁ、倒したというか、あのクソ主人公ども、聞いた話だとゲームではバグ技として知られていたあれを使って俺を捕縛して魔法を封じたらしいけどな。



「はぁぁ……面倒だけどやるか」



 俺は唯一取り上げられていなかった黒いローブにくっついていたフードを目深に被って、ゆっくりと十数人いる盗賊たちの元へと歩み寄っていった。



「やぁ、諸君。精が出るね。今日も元気にやっているかい?」



 右手を上げて軽快なステップ踏みながら声をかける俺に、むさい奴らが一斉に振り返った。



「なんだてめぇはっ」

「おめぇ、俺たちが誰だか知ってて声かけてんのか!?」

「死にてぇのか貴様!」



 汗と泥と垢まみれの不潔な見た目同様、どうやら中身までいけてないようだ。

 奴らは筋骨隆々の身体にものを言わせて、俺に接近しつつ威嚇してくる。

 中には長剣を持っている奴もいた。

 あっという間に周囲を取り囲まれてしまう。



「まぁまぁ、そういきり立たないで」

「あぁ!? 何透かしたこと言ってんだ!」

「おいっ。とりあえず、兄ちゃんよ。持ってるものすべて置いてけや。そうしたら見逃してやってもいいぜ? くははは」

「いやいや。随分と久しぶりの獲物だ。森に放り込んで狩猟といこうや」



 とまぁ、バカなことばかり言い始める残念な人たち。

 俺は両手を広げて肩をすくめた。



「ん~~~? よくわからないんだけどさぁ。とりあえず俺、そういうのいいから金と食料と水、あぁ、あと武器が欲しいんだよね。融通してくれないかな?」

「は……?」



 呆然とするむさい奴ら。

 すぐにバカみたいに大笑いし始めた。



「がははは! この兄ちゃん頭イカれてんじゃねぇの!?」

「ギャハハ! ほんっと自分が何言ってんのか、理解してねぇんじゃねぇのか?」

「ちげぇねぇ! アホすぎて腹痛ぇわ!」



 俺の周囲を取り囲んでいた十数人のごろつきどもが腹を抱えて笑っている。


 いや、ていうか、笑いたいのはこっちなんだけどな?

 こいつら、俺がラスボスだってこと知らないだろ?

 ……まぁ知るはずもないか。


 魔法は封じられ、ラスボスがラスボスたり得るも失ってはいるけど、それでも俺、メチャクチャ強いんだけどな?

 何しろ、ゲーム内だと通常攻撃でHPの半分とかもってかれたからな。


 俺が持ってるはずの数ある凶悪な剣技スキルや古代魔法とか喰らったら、その瞬間、即死するんだけど?



「ねぇ。もう一回だけ言うけど、食料とか持ってきてくんないかな? そうしたら命までは取らないけど?」



 そう言ってニヤッと笑ってやると、途端に雰囲気が変わった。



「は……?」

「おい……おめぇ、自分が何言ってっかわかってんのか?」

「つーか、食料だと!? んなもん、くれてやるわけねぇだろうがっ」



 盗賊たちは一斉に武器を身構えた。

 俺は溜息を吐く。



「まったくもう……。俺、一応警告したからね?」

「あぁ!?」



 俺の眼前に立っていた盗賊団の頭領と思われる男がメンチ切った瞬間、それが合図と言わんばかりに俺は一気に動いた。


 敢えて言おう。

 俺は魔法使いなどではないと。

 凶悪な魔法が使えるだけの、ただの最強ラスボス剣士なのだということを!


 ジークフリード・オルフェリンゲン十八歳。

 黒髪と黒い瞳をした美丈夫。

 普通に生きていれば、本当なら伯爵家の御曹司として何不自由のない暮らしを送れていたはずの可哀想な少年。

 しかし――



「あはは! そ~れ! いっくよぉ~!」



 俺は前世の記憶を持っているのと同時にジークくんとして生きた十八年間の記憶まで持っているので、思わずジークくんだった頃の性格に引っ張られたかのような芝居がかったクソガキ口調で叫びつつも、瞬間的に動いた。


 縦横無尽に動きまくって敵が振り下ろす剣や斧よりも速く懐に入る。

 片っ端からみぞおちに強烈な右拳を炸裂させて、すべての雑魚キャラを蹴散らしていった。


 まさしくラスボス。

 そして、まさしくこれが転生後初めて行った一作目ラスボスによる、世直し冒険クエストの始まりだった。




~~ * ~~ * ~~


 初めましての方、お久しぶりの方々、本作に興味を持っていただき、誠にありがとうございます!


 ひ~ひ~言いながらも、がんばって書いてようやく公開できるまでに至った新連載。

 全体的にちょっと笑えるライトな物語になっていますので、お気軽に読み進めていただけたらと思います。 


 そして、皆様の温かいご声援が本作を続けていくための極上のスイーツとなります(笑

 面白い、続きが気になると思ってくださいましたら是非、★★★やフォロー付けなどよろしくお願いします。



 ぺこり

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