第2話「社会人デビュー」
高校卒業後、俺は、
デザイナーの月の平均残業時間は80時間から100時間超。当然、当たり前のように徹夜もある。
日中、俺たち営業がクライアント先を駆けずり回って会社に戻り、手に入れた仕事をデザイナー依頼するのは、早くても17時。トラブルなどが発生したりすると20時くらいになることもある。納期に余裕があれば良いが、食品チラシなどは、短納期のため、責任校了後、翌日までに
「あーあー、これ、こんなに修正あんのー? 勘弁してくれよー。素人さんはさー、ここんとこ、ちょっと上に上げてーとか、こことここ差し替えてーとか、気軽に言ってくれちゃうけどさー、困るんだよねー。どうせチョチョイのパッでできると思ってんだろ? ここ、レイヤー何十になってると思ってんだよ、ったくよー、営業さんも、もうちょっとさ、デザインのこととか勉強してよ? はあー、今日も徹夜かー。俺、もう3日ここに泊まってるんだけど……かみさんと子どもに会いてーなー。いいよなー、営業さんは、これ俺たちに投げたら帰れるんだもんねー」
と、まあ、こんな風に、散々厭味を言われるわけだ。
そんなこんなで、クライアントの奴隷となり、デザイナーの苛立ちのシャワーを浴びせられ、上司に怒鳴られ……
「こんな会社、辞めてやる!」
と何百回思ったかわからない。そんな時、俺は、いつも、オカンのことを思うようにしている。
俺の父親は、オカンが俺を産んですぐに重い病気に罹り、俺が2歳になる頃に亡くなってしまったと聞かされている。その当時、俺たち家族は大阪に住んでいたが、父が他界した後、オカンと俺は、オカンの姉が住んでいる東京に引っ越して来たらしい。オカンがムショに勾留されていた時に俺の面倒を見てくれていたのは、オカンの姉、要するに、俺の伯母だ。
オカンはずっと、化粧品会社のコールセンターでテレフォンオペレーターの仕事をしていたが、俺が小学4年になると同時に、その仕事の他にもうひとつ夜の仕事を掛け持つようになった。銀座でホステスをしているらしい。
そんなわけで、オカンはずっと、オーバーワークで、いつ倒れてもおかしくないくらい働き詰めなのだ。すべては俺のために……
だから、俺は、これ以上、オカンに無理をさせたくなかったのだ。一刻も早く社会に出て、少しでもオカンの負担を軽くしてあげたい。今まで苦労させてきた分、今度は俺が、オカンを幸せにしてあげたい。
そう思うと、不思議と力が漲ってくる。
目まぐるしく過ぎる日々……
気付けば入社してから2ヶ月が過ぎていた。努力の甲斐あって、少しずつ、俺の仕事に対する評価も上がり始めてきていた。
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