第12話

          一章


       マリちゃんとドライブ


          その⑤


 「今日は別の教室へ移動します。各自必要な物を持って5分後に再集合して下さい。おやつは300円までとします。弐狼君は他人ひとから貰わない様に。」


 「センセー、バナナはおやつに入りますかぁ〜」


 弐狼がマヌケな声でお約束を垂れる。


 「残念ながら君のに値段を付ける程の価値は無いな。誰も取らないから安心しなさい」


 自販機広場にて星空教室の非常勤スパルタ講師として存在そのものが怪しい幽霊生徒とボンクラに教鞭をとる。


 「ハイッ先生!わたしコレしか無いので準備オッケーです!」


  マリが黄色いピカピカ光る玉を見せて来る。弐狼に投げてたヤツか。


 「なんだそれ?新しいおもちゃか?」


 「茂みの中で拾ったんです。なんだか凄いエネルギーみたいな物を感じるけど材質とか全然分からないです。冬なんかはほんのりあったかくて、カイロ代わりに使えて便利なんですよ」


 「弐狼、今日はちゃんと財布持って来たか?」


 「あたぼーよ!いつまでも同じ俺と思うなよ?」


 弐狼は得意気にポケットからガマグチを取り出しドヤる。パシッと素早く取り上げガマグチを開いた。

十円玉がひとつ。五円玉がひとつ。一円玉がふたつ。

ハハッ、御縁があって縁起がいいや。


 「こんな事だと思ったよ!小遣いちゃんと貰ってる筈なのに金遣い荒すぎだろ!我慢を覚えろよ!」


 弐狼にガマグチを投げ返した。開けたまま投げてしまったので宙に舞ったコインが弐狼の顔に貼り付き両目に一円玉、鼻に十円玉、いつも開きがちな口に五円玉がジャストミートした。


 両手で顔を隠して苦しそうに笑い悶えるマリに


 「悪いが今日はお笑いの講義をするつもりは無い。

昨日はつい気分が盛り上がってベリーハードでプレイしちゃったから、イージーコースで夜景を眺めつつコツを教える感じでゆる〜く流そうと思う。それが終わったらまたお食事タイムだな。」


 顔にコインを貼り付けたまま弐狼がモンスターの様に笑いでフリーズ状態のマリに襲い掛かり、半ば強引にコンバートした。


 「うう…無理矢理合体させられちゃった…もうお嫁に行けないです。なのに妙に居心地イイのが悔しいです…」


 弐狼の体でモジモジすりマリに悪寒を感じつつ助手席に座らせ自販機で自分のコーヒーを買い


 「お前等何にするよ?」


とリクエストを聞く。弐狼の分は癪だが、マリが美味しそうに飲み食いする姿は飲食の味をレベルアップしてくれるのでつい奢りたくなる。


 「ああ、俺の分はいらねーや。マリちゃん好きなのどーぞ。」


 弐狼の口から信じられない紳士的なセリフが吐き出された。コイツやっと少しだけ成長したのか…出逢いは人を変えて行くらしいが俺の苦労は無駄じゃ無かったんだな…」


 「有難うございます。じゃあミルクセーキお願いします」


 「マリちゃんが俺の体で飲めば俺も味わえるからな。美少女と感覚をシンクロ出来るなんて超お得ダゼェ!フヒヒ何なら俺のミルクセーキもご馳走するぜ?」


 「ヘンタイ!ヘンタイ!も〜弐狼さん最低です!せっかくのミルクセーキが別のモノに見えちゃうじゃないですか!食べ物の恨みは怖いですよ!」


 成長したのはそっちだったか、この変態紳士め。入れ替わりながらケンカする姿に、昔のロボットアニメの敵の幹部にこんなのいたなと思い出していた。


 弐狼に憑依したマリがチビチビとミルクセーキを飲み終えると、北地区に在る星空教室分校こと低速コーナーが多い人里離れた山道の入口に着いた。ここから頂上にある展望広場に向けて登って行く。頂上の広場からは大パノラマが拝める絶景スポットの一つなんだが、生い茂る木に囲まれ道中は余り面白く無い。特に夜ともなればポツポツと有る街灯以外灯りが無くかなり不気味なのでたまに物好きな走り屋が来るくらいだ。整備された空海そらみスカイラインと違い路面のグリップも悪くガードレールもサビまくりだ。

 限界を超えない様に気を配りながらペースを上げて行く。ハイスピードとはまた違ったマシンとの対話が面白い。空海そらみスカイラインよりシフトチェンジが頻繁でマシンを操っている実感がある。マリも

上機嫌で


 「コレならわたしでも楽しめそうです。ここも走ってみたかったなぁ…あ、あのカーブの外側妙に広いですね?何かの跡地みたいな」


 「ああ、アソコな。昔ピット・インて言うレストランが有ったんだよ。けど峠ブームの時何度も走り屋の車が横転して閉店後の店に突っ込む事故があって、とうとう大黒柱へし折れて物理的に潰れたらしい。今は走り屋のカンパで頂上に移転して展望レストランになってるよ」


 そこから暫くして

 

 「あっ、アソコガードレールの色が違いますね?

えっ、あの木陰のトコなんか白い人影の様なモノが見えたんですが!」

 

 「それは多分走り屋の成れの果てだな。歴史ある走りのスポットだから古参のひと達もいるからな。襲って来たりしないから影の薄いギャラリーだと思えばいいよ。ここも心霊スポットだったな忘れてたわ。」


 「忘れないで下さい!ああっまた!こっち見ていい笑顔で手を振ってます!」


 「ココら辺は樹液で滑り易いからなぁ。魔のコーナーの一つで高確率で霊に会える観光の穴場でも有るんだよ。」


 「幽霊を観光資源にしないで下さい!呪われますよ!ってなんで太助さんそんなに平然としてるんですか?」


 「気にしてたらこの街で走り屋なんて出来ないしな。

昼間は車が多いから無理だし、風情があっていい味だしてると思わないか?」


 「そんな煮物みたいに言われても…染みすぎですよ」


 その後何体かの幽霊にエンカウントしながら無事頂上の展望広場に到着。なぜか途中で出会った走り屋幽霊の人達が揃って迎えてくれた。


 「いやぁ、久々のお客さんだねぇ。最近夜はめっきり人が来なくて寂れちゃってね。なぜだろうね?」


 多分あんたたちのせいだよ。


 「お、女の子がいるぞ。走り屋のくせに!俺なんか車に金使い過ぎて彼女に振られちゃったのに…」


 弐狼はまた幽霊からお菓子を貰っていた。

コイツ案外どこに行っても食いっぱぐれないから最強じゃね?


 マリは最初ビクビクしていたが女日照りの走り屋幽霊達にチヤホヤされて、すっかりアイドル気分でなんかポーズとか取っていた。


 夜景を堪能して走り屋幽霊の人達に盛大に見送られ展望広場を後にする。腹を空かせたケモノが


 「太助〜腹減った〜!今日は定食ガッツリ食いてー」


と騒ぎ出す。17円でガッツリ食える定食が有るなら言ってみろよ。集り狼め。う〜ん定食か、となるともうアソコしか無いな。


 24時間営業の我等車乗りの聖地、


     〝飯澤ごはんセンター〟


 俺はその約束の地へとハンドルを向けた。

 


 

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