第11話

          一章


      マリちゃんとドライブ


          その④


 空海そらみスカイラインを下り空海中央駅前までやって来た俺はお目当てのラーメン屋台を探す。

出発前は四の五の言ってた割に、弐狼の中のマリは体を乗っ取りちょくちょく楽しそうに話しかけてくる。


 「わー、2年振りに来ると結構変わってますね〜。友達と良く行ってたタピオカ屋さんが無いです。クリームあんみつタピオカをもうタピれないなんて…老舗の町中華は強いですねー。あそこのニラレバ大盛りにして友達とシェアしてました。学割でめっちゃ安くなるんですよ。あ、アレじゃないですか?」


 平日の夜は仕事帰りのサラリーマンで賑わうこの界隈もいつもより人の往来が明らかに少ない。にも拘わらず、ボーッと灯るラーメンと書かれた赤提灯が駐車場の一角に妙な存在感を放っていた。商店街の駐車場を夜間は居なくなった車の代わりに屋台に貸しているので、車で来てもタダで駐車出来るのは有り難い。車を停めると、弐狼の中からマリがにゅ〜っと出てきてう〜ん、と大きく伸びをする。

 健康的できれいな脇と控えめな胸が強調されドキッとして目を奪われる。空腹が限界の弐狼が屋台に飛んで行き、ドアにヒット軒と書かれた軽トラの暖簾をくぐる。


 「おっちゃんおひさ〜!今日は新メンバー連れてきたぜ〜!」とおじさんの前に陣取る。いつも俯きかげんで表情が見えない幽霊おじさんは「いらっしゃい、また来たか」とボソリと呟く。


 「おっちゃん3人で。ゴールデンウィークでもやってんだな、助かるよ。どーよ?お客さんは?」


 と、俺が尋ねると


 「この街は観光客が多いからナァ。おみぇらみたく夜遊び組も居るからボチボチだナァ」


 と相変わらず生気の無い声で「今日は何にする?」とオーダーを聞いて来る。マリが顔を寄せ小声で


 「あの、このおじさんは生きてる人ですよね?わたしより顔色悪いんですけどラーメン完成できますよね?」


 「安心しろ、おっちゃんはいつもこんな感じだよ。むしろ今日は顔色良い位だ。そこいらの新店舗よりダントツで美味いから期待していいぜ?」


 ほほう、とマリが席に座り、ど厚かましい弐狼が


 「おっちゃん俺全部盛り大盛り〜!」


 と威勢良く注文する。遠慮ってのも教育しないとダメだな。マリはと言うと


 「わ、わたしは…」


 貼られたラーメンの写真を見るが、全部盛りに視線が釘付けになっている。


 「おっちゃん全部盛り大盛りあと二つ。腹減ってんだろ?遠慮なんて無しだ。満タンにしとけよ。」


 俺はマリを見てニヤッと笑う。


 「あ、有難うございます…本当は凄くお腹減ってて…幽霊は食べなくても死なないですけど、はっきり見えて触れるくらいの状態を維持するのにはかなり霊力使っちゃうんです。霊力ゼロの状態がずっと続くと、中には消滅しちゃうひともいるんで助かります!」


 パアッと笑顔で周りに華を咲かせる。この笑顔の為ならラーメンくらい安く思える。弐狼の奴に見習わせたい。弐狼の奴はコチラを見てしてやったりとニチャッと笑う。止めろよラーメンがまずくなるだろ!


 やがて一回り大きな丼ぶりに盛られたラーメンが着丼。アッサリ目の豚骨醤油のスープにチャーシューが5枚、味玉、茹でたもやしとキャベツが真ん中にドンと盛られナルトやほうれん草、メンマがその裾野を固める。そして丼ぶりの縁には大判の海苔が5枚。

う〜ん、いつ見ても圧巻だぜ。卓上の豆板醤とおろしニンニクを多めに入れて、粗挽きコショウを振りかける。仕上げにお好みで卓上のネギを散らす。マリもそれに習って調味料を盛っていく。

ニンニク入れるのな。幽霊の消化器官ってどうなってるんだろう。弐狼は相変わらずバカみたいに調味料を盛っている。舌もバカなんだな。3人揃って頂きます

と手を合わせ、昔ながらの木の割り箸をパキッと割って先ずは絶品スープから。ちょっと冷えた体に熱々のスープが染み渡る。またもや3人揃って夜空を見上げ、

マリが


 「イイですねー。親しい人と一緒に夜空の下で食べる絶品ラーメン…ヤバいです。昇天モノです。五臓六腑にしみわたります…」


 だからドコだよその五臓六腑は。透けちゃってるだろ。見てるとマリが食べたラーメンは何も無い空間に消えている。こういうのは気にしたら負けなんだな。

 やはり育ちがいいのか食べる姿も愛らしい。大口開けて「アチッ!アチッ!」と飢えた犬の様にひたすらかっ込む弐狼とは対照的だ。


 仲間と並んで食べる至福のラーメンを堪能し、スープを完飲。俺とマリは揃って満面の笑みでプハーッと息を吐き出し


     「「ごちそうさまでした!!」」


 と、手を合わせる。はっ!と弐狼を見るとペロペロと丼ぶりを舐め回した後、丼ぶりをカウンターに伏せてウインクしながらサムズアップする。


 「変わったルールなんですね?じゃあわたしも」


丼ぶりを舐めようとするマリを制止し、


 「アレがダメな常連の見本だ。アイツバカの癖に余計な知識ばかり覚えて来やがって!アレは伏せ丼って言ってな、めっちゃ美味しかったからスープも残さず完食しちゃったぜ。俺エライ!ってアピールなんだが不衛生だとかビジュアル的に無理ってボコボコに叩かれて消滅したラーメンマニアの作法なんだ。」


 案の定おっちゃんから


 「小僧、うちは伏せ丼はギルティだ。わかるな?」


 と叱られていた。俺とマリはおっちゃんに頭を下げて洗い場になっている駐車場の水道で3人分の丼ぶりをキレイに洗っておっちゃんに返却し、俺は勘定を済ませた。おっちゃんは


 「苦労してるなァ。幽霊の娘彼女かィ?青春だなァ」


と言って少しだけ負けてくれた。大盛り全部盛りが千円ポッキリなのは今時十分リーズナブルなんだが、おっちゃん一人で屋台なのでやっていけてるそうだ。


 近くの公園に移動し、火照った体を夜風にまかせてクールダウンしていると、ポン、と後ろから肩が叩かれニッコリ笑う弐狼が


 「ラーメンあんがとよ。お預けされた時はオマエとの友情疑ったけどやっぱ親友の奢りで喰うラーメンは栄養になるぜ。処でよお太助君、しょっぱい物食った後は甘いのが欲しいよな?マリちゃんにイイトコ見せて男前アピールするチャンス与えてやるぜ?」


 「しょっぱいのはオマエだよ!どんだけ厚かましいんだ動物野郎!オマエの餌係じゃねーんだよ!チキショーコレで終わりだぞ?オマエが買ってこい!お使いくらい出来るだろ!明日は絶対に財布持って来いよ?」


 千円を渡しアイスを買って来る様に弐狼に伝えコンビニへパシらせる。この程度ならアイツの知能でもなんとかこなせる筈だ。失敗したら奴はもう用済みだ、保健所に電話しよう。ブランコを漕ぐマリを誘い弐狼がコンビニに入って行く。マリが一緒ならコンプリートと見ていいな。


 暫くしてマリと弐狼がコンビニから出て来るのが見えた。弐狼は店を出るなりアイスに齧り付き、律儀なマリが俺の元へすーっと飛んで来る。


 「お待たせです!アイスまで頂いて感謝感激雨あられのち快晴な気分です。もし天国に行けたら太助さんがいつでも登って来られる様に、わたしが縄ばしご降ろしてサルベージしますから安心して天寿を全うして下さい!」


 「縁起でもない恩返しだな。気持ちだけでお腹いっぱいだよ。人生の宿題が溜まりまくってるからな」


 「ひょっとして自由研究とか苦手なタイプですか?

わたしは新しいお料理のレシピを提出してました。

みんながヨダレを垂らして現物を欲しがるのが玉にキズですが」


 「俺は自由を満喫したいだけだよ!未来には無限の可能性が有るからな。若いうちに将来を決めてしまう必要性を感じ無いな。」


 「将来っていうかこの後なんですが久々にココに来たんで商店街探索したいです。成仏する前に色々見て周りたいので」


 「とりあえずアイス食ってからな。空海そらみ大福あったか?」


 「期間限定のマンゴープリン味ですね。わたしのタピオカアイス半分と一つ交換してくれませんか?」


 気が付くと俺達の前に弐狼がお座りしてキラキラした目で見上げていた。 


 「オマエ自分の分食ったろ!モーゲンダッシュは美味かったか?ちゃっかり高いの選びやがって!キッチリ働いて貰うからな!」


 こき使ってやるつもりで弐狼に先導させて商店街を探索するも、何度も来ている筈なのに散々迷って一通りマリに案内が終わると空が白み始めていた。疲れ果てた俺達は車の中で一眠りした後マリをワインディングに送って行きそれぞれの家路に着いた。


 マリが言うには寝心地のいい岩の窪みを今の住処にしているそうだ。簡単に見つからない場所なので安心して欲しいとの事だった。朝帰りした俺はコッソリ部屋に戻り、又もや夕方までグッスリ爆睡した。マリのやつも今頃いい夢見てるといいな。


 


 


 


 


 


 

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