第6話
一章
マリちゃんとこんばんは
その⑤
車上の幽霊を説得し、無事駐車場のアスファルトに着地させた俺はエンジンフードを確認する。LEDの街路灯にきれいな赤色が反射する。どうやら被害は無い様だ。
「あの、これからわたしどうなっちゃうんですかね?モチロン知ってる事は全部お話しします。ちゃんと罪を償って被害者の方にお詫びを…お父さん、お母さんごめんなさい…。」
「一人で盛り上がってる所邪魔して悪いけど、特に被害らしいモノは見当たらないが事情は聞かないとな。立ち話もなんだし、あっちで座って話そうぜ?」
俺は自販機の横に在るベンチを親指でクイッと指差す。
「オイ太助、幽霊とは云え相手は女の子だ。初犯だし、被害者がオマエだけなのは幸いだ。此処は笑って水に流そうぜ?身元引受人は俺でいいよな?」
「これっぽっちも幸いじゃ無ぇよ!オマエなんかに引き渡したら別の犯罪が起きちまうだろうが!大人しくあっちでお座りしてろ!」
シッシッとベンチの方に弐狼を追いやりとりあえず煌煌と闇夜を照らす自販機に向かい、財布からコインを取り出しコーヒーのボタンを押す。
「太助ー!俺ホットなー!」
「奢らねーよ、コーヒーぐらい自分で買えよ」
「俺財布忘れて来ちまってよぉ。いーだろコーヒーぐらいよぉ、親友だろぉー?」
「絶対わざとだろオオカミ野郎!あとで返せよ!」
俺は振りかぶって弐狼に投げ込む。反射神経が良い親友はちょっとズレたコーヒーに飛び付きヘヘッと卑しく笑う。
まだ夜は冷える此処ら辺はホットのドリンクが結構幅を利かせている。当然の様にホットコーヒーを二つ購入した後、お行儀良くちょこんとベンチに座る幽霊少女に
「あっ悪いコーヒーで良かったか?」
とコーヒーを差し出すとキョトンとした後
はっ、と我に返り
「えっ?頂けるんですか?ホットコーヒーなんて久しぶりです!ありがとうございます!こんなわたしに良くしてくれるなんて…」
渡した後にそもそも飲み食い出来るのかという根本的な問題に気付いたが、大喜びしている所をみると大丈夫な様だ。お供え物なんて物も有るしな。
俺達は幽霊少女を囲んでベンチに座り、コーヒーを啜る。美味しい、美味しいと大事そうにコーヒーをチビチビ飲む幽霊にほっこりさせられ俺は質問する。
「俺は
不可解過ぎる出来事につい矢継ぎ早に質問を重ねてしまう。幽霊少女はチラリとこちらを見ると顔を赤らめ目を反らしつつ、
「わたしは
「青い車の人に見付からなくて良かったな。根は悪い人達じゃ無いが思い込みが強いからなぁ。どうやってエンジンフードなんかに乗ったんだ?」
俺は最大の疑問を投げかける。
「なんか車の形見てたら、あそこなら乗っかりやすそうだなって。入口の料金所の所で上からエイッて飛び降りて、上手く乗っかれて良かったです。あっ、わたし凄く軽いですから!良く幽霊に取り憑かれたら肩が重くなるって言うのは物理的じゃなくて、生命力を吸収されるかららしいです。それにしてもこの車の
エンジンフードの上って平べったくてあったかくてイイですねー、クセに成っちゃいそうです。」
「なんだ、重さは無いのか。こりゃ杞憂だったな焦って損したぜ。全くお茶目さんだな。おっと、取り憑くならアイツがイイぞ?」
俺は矛先を親友にすり替える。アイツは無駄に生命力強いからお似合いだろう。
「なぁ、ひょっとして二年前に事故で車ごと崖下に落ちて死んだのってマリちゃんなのか?」
弐狼が無神経に切り込むと
「あっ、ソレわたしです!免許取って大学の入学祝いにお父さんが車買ってくれて、嬉しくて毎日此処に走りに来てたんですけど、カーブの所で多分タヌキ?が飛び出て来て思い切りブレーキ踏んじゃって、車が全然言う事利かなくなってガードレールに突っ込んで気が付いたらわたし宙に浮いてたんですよ。下を見たら崖から落ちた車の中でわたしの首がいけない方向にこんな感じに曲がってて…」
首をコキッと90度曲げちょっと楽しげに再現する。こえーよ。そう言えばそんなニュースあったな。死んだ女の子が可愛くて、攻め過ぎて自爆したんだろう自業自得だというアンチと、可愛いは正義という擁護派がリアルバトルに発展し逮捕者まで出る事態になってた。その後和解してファンクラブを作ろうとしたら、不謹慎厨にフルボッコにされ解散したらしい。
「そろそろ本題いいか?あんたの話ってなんだ?俺達ただの学生で霊能者じゃ無いんだが。」
すると幽霊少女は真面目な顔になり、
「わたし、成仏出来ないんです。多分未練が有るからだと思います。瞑想とかしてみたんですけど何やっても効果無くて。出来れば誰かに手伝って貰えないかと思って声を掛けてたんですけど逃げられちゃって。」
「お願いします、わたしをドライブに連れて行ってくれませんか?」
縋る様に俺の目をじっと見つめて来た。
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