【三題噺 #53】「リボン」「銀行」「ブレーキ」(933文字)
彼女のわらった顔
僕は金曜日だけ午後二時に会社の仕事として、本来の仕事ではない銀行と郵便局へ行く。
でも本当の目的は、銀行近くの和菓子屋でおやつを買うことだ。
社長は副社長である奥さんに糖尿病になるから、と甘いものを止められているので週一回だけ食べている。社長が自分で買いに行くと多く買ってしまうので止められている。以前は事務の女性(社長の妹)がやっていたが、彼女が気に入った同じ饅頭ばかり買ってくるようになったので僕になった。
車で十五分の場所にここら辺で一番賑わっている商店街があり、そこに銀行も郵便局も和菓子屋もある。賑わっているといっても会社の周辺よりは人がいるという程度の田舎だ。なかなか住みやすい土地だと思うが、人が減っている。
ある金曜日、僕は髪をくくり大きなリボンをした女の人の歩いてる後ろ姿を見た。あんな大きなリボンをしているのは昔の少女漫画でしか見たことがない。
その日に初めて見たのか、以前から歩いていたが全然気にしていなかったのか分からない。一度目にしてしまうと気になって顔を見ようと思ったが見えなかった。僕は道路を直進、彼女は道を曲がってしまったからだ。
翌週も同じ場所で大きなリボンの後ろ姿を見た。前を走ってる車とは結構距離があったので、少しスピードを上げて彼女を追い抜き顔を見ようと思った。が、彼女は 路地に入ってしまって顔が見えなかった。
そんな金曜日が二、三ヶ月続いた。
彼女の顔は、もう少しというところでいつも見ることができなかった。
来客があるというのでいつもより早くお菓子を買いに行くよう頼まれた。いつもの時間は反対車線を通ることになる。やっと顔を見られると思った。
いつもの場所を歩く彼女がいた。後ろ姿の。
こんなことがあるのか? たまたま僕が早めに出た時に、たまたま彼女も反対方向に歩くなんて。
僕はムキになってスピードを上げて彼女の顔を見ようとした。もう少しというところで対向車にクラクションを鳴らされた。思いきりブレーキを踏む。気がつくと反対車線にはみ出しそうになっていた。
ほっとして外を見ると彼女はこっちを見ていた。見ていたが顔に影がかかって暗くなり、顔が分からない。顔だけが暗くなっている。
彼女の顔は分からないが、彼女が僕を嗤っていることだけはなぜか分かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます