サンビタリアの憂鬱

そばあきな

サンビタリアの憂鬱

「ごめんなさい、他に好きな人ができたの」


 まるで示し合わせたかのように、君は同じ言葉で振られてしまう。


 ついこの間「彼女ができた」と写真を見せてくれたのに、いつの間にかその写真もアルバムから消してしまったようだった。


「今回は随分と早かったんだね」


 肩を落とし報告してくれた君にそう言うと、落ち込んだ様子から一転して「だよな!?」と前のめりになって一歩こちらに踏み込んだ。


「だって付き合ったの二日前だぞ!? しかも向こうから告白されたってのに他の男への乗り換え早すぎだろ! 破局RTAされてんのかって疑うレベルなんだが!?」


「……災難だったね。まあ、『女心と秋の空』ってことわざもあるしね」


 破局RTAに関してはよく分からなかったけれど、そう励ましておく。


 君は、彼女ができるたびに毎回「他の男を好きになった」と言われて振られてしまう、可哀想な人だ。


 別に、彼がカッコ悪いとか、幻滅する行動をしたとか、そういうわけではない。

 そもそも、幻滅するくらいの時間を恋人として過ごしてもいないのだから、幻滅しようもない。


 ただ、歴代彼女たちの見る目がないというだけだ。


 そして、そんな歴代彼女たちを毎回信じてしまう君も、見る目がきっとないのだろう。



「やっぱ白瀬だけだわ信じられるの」



 振られたばかりでまだ傷心中なのだろう、君がいつもよりも陰のある笑顔をこちらに向ける。


「もっと色んなところに目を向けてみるといいかもね」


 そうアドバイスをしてみたけれど、君は分かっているような分かっていないような表情で「そうかもな」と笑うだけだった。


 君の目は、こちらを見ているようで見ていない。

 だから毎回、できたばかりの彼女に振られるんじゃないかなと思う。



 ……ああ、そうだ。

 これは墓まで持っていく話なんだけど。


 その、君の歴代彼女を奪っていく男なんだけどさ。


 ……どうやら毎回、同じ男に奪われているみたいだよ。


 君の彼女にそれとなくアプローチして、自分に気が向くように仕向けているみたい。


 つまり確信犯ということだね。



 ねえ、誰だか聞きたい?

 いや、実際には言わないけどさ。

 でも、罪滅ぼしのために君に聞こえないくらいの声量で言ってあげる。



 君の彼女を毎回奪っていく男。



 ――白瀬くん、って言うんだってさ。





 【サンビタリア】

 花言葉「私を見つめて」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

サンビタリアの憂鬱 そばあきな @sobaakina

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ