21-5-1 第243話 来た甲斐、あったかい
弘治二年 1556年 十二月上旬 昼頃 場所:甲斐国 甲府郊外 旅館『甲富屋』
視点:律Position
その頃アタシは、来たるVIPを迎えるための準備業務を行っていた。
今回の件に関しては、「くれぐれも粗相が無いように」との厳命を、
信廉さんより預かっている。
もちろん、そんなこと言われずとも当社では丁寧な接客対応を心掛けている。
きっと、お客様が帰る時には口コミサイトに★★★★★と評価してくれるだろう
タツ「姐さん、少し聞きたいことがあるんですけど」
清掃中にタツ君が話しかけてくる。
律「何?どうしたの?」
タツ「いや……やっぱり妊娠って大変なんですかねぇ?」
律「……!」
タツ君の予想だにしない質問に、思わず手が止まる。
……もしかしてアレか?
戦国時代なりのプロポーズだったりする!?
答えに窮しているアタシを見て、彼も気まずく思ったようだ。
タツ「あ、いえ!違うんですよ!実は最近、姉が妊娠しまして……」
律「あら……それは、めでたいわね」
タツ「まぁ、吉事ではあるんですけど、
タツ君は顔を真っ赤にしながら答える。
律「うーん、そうね……
とりあえず見切り発車で話し始めたが、答えようがない。
アタシの場合、妊娠はおろか、結婚もしていないし……。
その時、足音と共に見慣れた女が現れた。
お龍「もうすぐ、貴人らしき人が来やすよ。準備できてるんすかい?」
律「え?もう来るの??」
お龍「連れを一人連れた馬上の人が……ほらッ!」
お龍が道の方を指さす。
確かに、それらしき人物が馬に揺られているのがわかる。
律「ごめん、タツ君!話の続きは後で!」
タツ「へ、へいッ!」
慌てて掃除道具を片付けて、馬上の彼を出迎える。
見た目から察するに、五十代くらいだろうか。
ナマズのような髭が特徴的だ。
律「あ、あの!武田家の方より、
「そうか、それはありがたい。さっそくお招きに預かるとしよう」
アタシは、宿の方へと彼を案内する。
律「お気に触ってしまったら申し訳ないのですが、貴方様は……?」
「そう言えば、名乗ってなかったの。
この人が公家の……?
言われてみれば、そんな感じの気品は感じる。
もっとも、公家なんて、ほとんど会ったことないが……。
律「あ、馬は我々で厩舎の方に案内します」
山科「それはありがたい。もしかして、手間賃など取らぬよな?」
律「ええ、あくまで、心遣いのサァビスですから」
うーん、決め台詞きまった~!
お仕事ドラマの主人公を演じる役者って、こんな快感を毎度味わっているのかな?」
山科「此度は駿河への下向のついでに参ってな」
律「なるほど。甲斐はどうですか?」
山科「……寒いのう」
そりゃまぁ、山国ですし。
律「お部屋には掘りごたつが、ございます。是非ともそちらで暖まりください」
言継さんは促されるままに、掘りごたつの中へと入る。
山科「おお!暖かい……。まるで胎内の赤子の心地じゃの……」
律「は、はぁ……そ、それは何よりです」
言継さんは首だけ出して、あとはスッポリとコタツの中に入ってしまった。
山科「もしかして、これの燃料代は取られはしない……よの?」
律「もちろん、これも宿代だけ頂ければ、お値段に含みません。これも……
「「サァビスですから」」
ご復唱ありがとうございます!!
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[1]内蔵頭:朝廷の財政の最高責任者。室町時代に入ってからは山科家の世襲となっていた。
[2]山科言継:戦国時代の公卿。山科家当主。1507年生まれ。和歌や
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