21-4-1 第241話 生命の危機

気をつけてはいますが、話の性質上、頭ピンク色な場面もございますので、

ご留意ください。

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弘治二年 1556年 十二月上旬 午前 場所:甲斐国 躑躅ヶ崎館 門前 

視点:京四郎Position


京四郎「ふぅ~、寒みぃ寒みぃ」


 オレは寒さを誤魔化すために、袖と袖をり合わせながら、

信繫様の内密に参上せよとの命に従って館へと向かう。


 律は近々にVIPが泊まりに来るらしく、支度のために昨日から旅館に詰めている。

……というか、戦国時代のVIPってナニモンだよ……


「おお!き、来たか。ま、待ちかねておったぞ!油屋!」


 門の所で待っていたのは、信廉様だ。

申し訳ないとばかりに、小走りで近づく。


京四郎「これは、おはようございます。朝から御丁寧にありがとうございやす」

信廉「う、うむ……兄上から話は聞いている。智の部屋にて待っておれとのことだ」

京四郎「わかりました。奥の部屋ですよね?」

信廉「そうだ」


 ペコリと一礼して門をくぐる。


信廉「……死ぬなよ」

京四郎「ははは……やめてくださいよ、信廉様。縁起でもないことを……」

信廉「わし、これでもあまり冗談とか言わない方だが……」

京四郎「……せめて冗談だと気分的に楽だったんですけどね~」


 そんな訳で心中穏やかならざる形で、智様の部屋へと向かう。


 目的の部屋は館の北側で、日の当たりにくい部屋だが、明るい。

なぜなら、あの部屋には富士屋製の行灯が置かれており、

ようやく起きた部屋の主が火を灯しているからだろう。


 こちらが話しかけるよりも前に、智様も気配で察したらしい。


智様「おお、今日は早いな。気にすることは無い。入って参れ」 


 それならばと、障子を開けて部屋の中へと入る。


京四郎「失礼しま……

智様「もう少しゆっくり来てくれても構わなかったのだが……。仕方ない、着替えるとする……


京四郎・智様「「…………!?」」


 目の前にいたのは、厚めの上着一枚を羽織っただけの智様だった。


その肌は雪のように白く、化粧もしていないのに色気がある。

そして細っこい体は、虎姉や律の体つきとは異なり、

食べてないのか心配になりそうな具合である。


胸元の膨らみは程よい美乳で、深い谷間は半分以上露わになっている。

実に朝から刺激過ぎて良くない。

……いや、嘘つきました。もっとください。後生ですから!


智様「ああ、すまないな。てっきり下女が来たものだとばかり……」

京四郎「いえ、こちらこそ入る前に声掛けが不十分でしたので」


 ほぼ全裸な智様を直視しないように目を背けながら、言葉を返す。


智様「何を慌てふためいているのだ?私の裸を見たことなど初めてではないだろう?」


 そりゃそうですけど!もう少し恥じらいってモノを持ってくださいよ!


京四郎「とはいえ、お体の具合も回復されたようで何よりです」

智様「そうだな。ここの所は落ち着いているな。気になるなら私の体の隅々までしてくれて構わないのだぞ?」

京四郎「ゲッホゲッホ」


 智様の言葉に思わずムセてしまう。


 そして、そこでようやくオレは気づいた。


京四郎「智様、最近少し太られましたか?」

智様「あっはっは、これは食べ過ぎと言う訳では無くてな……


 そう言って、智様はオレを手招きする。


京四郎「しっ、失礼します!」


 まるでどこかの傾奇者の拝謁のように頭を背けながら、のそりのそりと近づく。

しかし、まったく距離を詰めようとしなかったので、

智様はしびれを切らしたらしい。


智様「ええぃ!もっと近う、寄れ!」


 智様は、オレの右手を己の大きく膨らんだお腹へと当てる。


智様「ほれ。私の腹の中には既に、もう一つの命が宿っている。私と京四郎、お前との赤子がここにいるのだ……」


 オレは恐る恐る智様のお腹へと手を伸ばす。

実にすべすべした潤い肌で……じゃなかった。


智様「どうだ?少しは実感が湧いたか?」


 言われてみれば、胎動を感じる気がする。


京四郎「い、いや……素直に嬉しいです。おめでとうございます」

智様「えらく他人行儀だな。お前とてこの子の親なのだぞ?」


 まったく~とでも言いたげな顔で智様は、こちらを見てくる。


京四郎「本当にこの子の親は私なのですか?その、他に思い当る殿方とか……」

智様「私が男遊びをそんなにしている風に見えるか?」

京四郎「い、いや……そういうわけでは無いんですが……」

智様「まぁ、女遊びならば……することはあるけどな」


 それ、普通は男の人のセリフだからね??


京四郎「いやだって、私と智様がヤラし~ことしたのは一回だけですよ!半年くらい前の襲ってきたやつ!」

智様「普段の私としては、私に気を使って縁談を断っている高坂か律とヌシが近づけばよいと考えていたのだが……その、その日は私も少しどうかしていてな……」


京四郎「嫉妬?」

智様「そう言葉にされると恥ずかしいな……。まぁ、一夜の過ちくらいならばと至った結果がこれだ」

京四郎「oh……」


智様「おかしいよな~、本ではそう易々と妊娠するものではないと書いてあったのだが……」

京四郎「高坂様や律とシたことはありますけど、避妊はしてましたからね……」


 ゴムには代えられないが、ムクロジ[1]の皮は避妊具の代用品としてある。


京四郎「でも、確かに一夜だけですけど、あの日は六回戦くらいしましたよね?」

智様「……七回だ」

京四郎「あの夜はやたらと智様が話してくれなくて……

智様「なっ……!お前だって、私のことを呼び捨てにしていたくせに!」


智様・京四郎「…………」


 二人とも顔を真っ赤にして黙り込んでしまう。


智様「まぁ……そのなんだ。つまり私たちの相性が抜群すぎたってことだな」

京四郎「ですが……その、オレにはまだ実感が湧かなくて……」


 アニメのように、頬をつねって現実だと示して欲しかった。

その時だった。


 むんずと智様が、オレの首に手を伸ばしたかと思うと熱いキッスをかましてきた。


 某漫画ではキスを弾丸に例えていたが、その意図がわかる。

完全に視覚が追い付いていないのだ。


智様「これでわかったか?馬鹿者。私が何も想っていない相手と体を重ねるわけが無いだろう?」


 通常の三倍くらい赤くなった智様は、実にストレートな言葉をぶつけてくる。


京四郎「ですが、智様……

智様「私と二人きりの時くらい、様づけをやめろ」

京四郎「し、しかし……


 そうは言っても立場と言う物がある。


智様「虎姉」

京四郎「うぐっ……。オレの負けでいいです……」


 相変わらず、この人には勝てない。


智様「今は妊娠六か月らしい。出産は来年の春ごろになるだろう」

京四郎「なるほど……やっぱり悪阻つわりとか、きつかったのですか?」

智様「ああ、今はだいぶ落ち着いたがな」


京四郎「それは良かった」

智様「その分、うつ伏せには寝れんし、最近は胸も張ってきていて、サラシが湿っていることも……」

京四郎「……前言撤回させてください」


京四郎「でも、どうせなら、もう少し早く無事を伝えてくれればよかったのに。こちらは加減が優れないと聞いて、心配したんですよ」

智様「ああ、それはだな。信繫兄様が、事は内密にした方が良いと……」


京四郎「ゲッッ!!!!!!!!!!」


 そしてその時に、オレは気づいた。

信廉様の忠告の意味を、そして今日ここへ呼び出したのは誰だったかということを。


京四郎「と、智様!わ、私、休養を思い出しまして……


 慌てて、この場から去ろうとするも、既に時遅しだった。


信繫「どこへ行こうというのですかね?」


 そこには刀を構えた信繫様が立っていたのだった。


信繫「随分と長めのノロケ話でしたが、終わりましたか?」



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[1]ムクロジ:無患子と書く。ムクロジ科ムクロジ属の木。種子は羽根つきの球に使われる。薬用植物として漢方薬にも用いられた。

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