10-3 第132話  三条邸に参上!

天文二十一年 1552年 九月十一日 午前 場所:山城国 京

視点:律Position


お龍「へえ~。これが京か。でっけぇな」

又八「人の往来も府中(甲府)の比になりませんね」


 遠い未来に観光都市として栄えることになる、この古都は戦乱で荒れている。

それでも寺社や朝廷があることで、都市としての格を保ち続けている。

……今のは、狙った訳じゃないです。はい。


 ひとまず向かうのは、三条邸。

言わずもがな、晴信の正室のご実家である。


一刀「確か、この家だったような……」

律「妙に静かね。もしかして留守かな?ごめんくださーい!」


 邸宅に入ると、下男がいた。


下男「お、おお……!前に、甲斐からいらっしゃった方ですな。少々お待ちくだされ」


 中に案内されてしばらくすると、80くらいの出家した人が出てきた。


律「あ、お邪魔しております。甲斐の富士屋の者ですが、……公頼きみより様は……?」

老人「こらぁ、遠いところから……。ウチは、公頼の父の三条 実香さねか[1]と申します。せっかく来てもろうたんやけど、公頼は……うぐぐっ」


 そこで実香様は、言葉を詰まらせてしまう。


実香「公頼は亡くなりました」

律「ええっ!?」


実香「昨年の九月の事です。実頼は、周防すおう[2]山口の大内様の所に下向しとりました。ところが……、ところがそこで家臣の謀反に巻き込まれて、亡くなったと……」


 そこまで言うと実香様は、涙ぐみ始めてしまった。


 大内……謀反……。

あー、すえ晴賢はるかた[3]の謀反のヤツか!

そういえば、そんな事件があったな!


 実香さんの嘆いているのを見かねて、アタシは手ぬぐいを差し出す。


律「何も公家まで巻き添えにすることは無い、と思いますけれど……」

実香「……まったくです。公頼には、男子がおらんので養子を取らなならへん……」


 大内氏の本拠地、山口は『西の小京都』と呼ばれた都市で訪れる公卿も多かった。

公頼様もそうした人の一人だったのだろう。


……とは言え、もし会った時に山口には行かないように、言っていれば避けられたのだろうか?

でも、それだと歴史が変わってしまうし……、ツラい。


実香「……それで今日は、何の御用で?」


 実香様も下男が持ってきた水を飲んで、ようやく落ち着いたようだ。


律「実は、私たち野菜を探しておりまして……。詳しい人をご存じないですか?」

又八「植物とか、何でもいいので……お願いします」


 又八さんも援護してくれる。


実香「そうやなぁ……。野菜に関しては、あまり詳しくないさかいのぉ……」


 まぁ、お公家様が詳しくなくても無理ないか。


実香「あ、そうや!植物であれば、道三どうさん先生がおる!」

律「道三先生?」


 まぁ、美濃の斎藤道三じゃないのは……確かね。


実香「曲直瀬まなせ道三どうさん[4]。公方や管領を診察したこともあると言う、京随一の名医じゃ!」


 なるほど、医者か!

薬草とか植物に詳しいのも当然のことだろう。


実香「孫娘によろしゅう伝えてください」

律「実香様も、お元気で!」


 実香様にいったんの別れを告げる。

武田家にとっては、三条邸は確実な連絡所である。

スマホも電話も迷子センターも無いので、ここが需要な拠点なのだ。


律「それじゃあ、曲直瀬道三の所に行きますか!」

一刀・又八「はい!」お龍「あいよ!」


又八「ところで、道三先生の家の場所は知ってるんですか?」

律「あ……。聞くの忘れてた!」


 こうして、実香様に家の場所を確認してから、アタシたちは出発したのである。



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[1]三条実香:三条家十五代当主。1469年生まれ。三条公頼の父。三条夫人の祖父。出家している。

[2]周防:現在の山口県東南部。

[3]陶晴賢:大内家譜代の家臣。1521年生まれ。武官として文官たちと対立し、謀反(大寧寺だいねいじの変)を起こす。

[4]曲直瀬道三:医聖と呼ばれる戦国時代の名医。1507年生まれ。足利学校で医学の道を歩むことになり、1546年に還俗して医者として働いている。

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