0-1-5 第5話 思い出の味はチョコの味

天文十八年??月??日 場所:遠江国 浜名湖沿岸

視点:律 Position


天文十八年って西暦何年だったか……。

ダメだ、思い出せない。


 少年は京四郎と気が合う様で色々と話している。

少年は訳があって家出してきたとか他愛もない話だ。


京四郎「そうだ、桶狭間の戦いってもう起きてるか?」

少年「桶狭間?」

京四郎「そう。今川義元いまがわよしもと[1]が織田信長に敗れて討ち取られた~ってやつ」

少年「えっ、義元様が信長に!?」


まずい……。これは、まだ桶狭間の戦い以前のパターンだ。


律「そ、そうだ!休憩しましょう!ちょうどいい所に荒れ寺があるし!」


 左手奥に見えるお寺を指さした。

京四郎「それもそうだな。そうしよう」


リュックを床に降ろしてようやく一息ついた。


律「そうだ、坊や。チョコレート食べる?チョコ」

少年「こ、これ貰ってええんですか?」

律「そう、このチョコは真ん中で半分こ出来るのよ」

少年「あ、ありがとうございます!」


 一休みし終えると、


京四郎「なあ坊主。申し訳ないけど1つ頼まれてくれるかい」

少年「ええ……と言いたいところですけど、さっきご馳走になりましたでよ。あんなに甘い物を食べたのは初めてですわ!」

京四郎「すまない。実は服を調達してきて欲しいんだ」


 あー、それはわかる。どこに行ってもこの格好だと浮いちゃうよね。

少年「わかりました。少し待っとってください」


一時間ほどだろうか、ちょっと待ったら少年は戻ってきた。


少年「こんな物でどうでしょう?二着とも男物で申し訳ないんですが」

律「調達してきてもらった以上、贅沢は言わないわよ」

京四郎「ありがとね。はい、これはお駄賃」


 京四郎は財布から500円玉を取り出して、少年に渡した。

少年「なんですかコレ?銅銭か何かですか?こんな贋金見たことないし」

京四郎「あっ、いけね。つい反射的に……」

少年「いや、これでええですわ。こんな綺麗な硬貨見たことないし」


 まぁ、それで満足ならいいか。


 ふと京四郎の方を見ると少年から貰った服に着替え始めていた。


京四郎「なんだ、律は着替えないのか?」

律「そうじゃないでしょーーーーーーーーーーー!」


手元の筆箱を京四郎の顔面に投げつける。


律「まったく、デリカシーってものはないのかしら」


 少年は察しがいいのかいつの間に寺の外に出ていた。

気の使える少年だ。きっといいお嫁さんできるよ。


律「も、もういいわよ……。」


 慣れないながらも、何とか着替えることに成功!

渋緑の和装。悪くない。


京四郎「お、終わったか。一人で着替えられないんじゃないかと心配だったぞ」


 皮肉なのか本当に心配しているんだか。


京四郎「……あー、でもその格好は似合ってるぞ」


 ……この野郎。


 少年が調達してきたものでご飯を済ませて、戦国時代生活一日目は終了した。



◇◇◇◇

 戦国時代二日目


 少年の聞くところによると、浜松の辺りを治めているのは曳馬城ひくまじょう[2]の城主飯尾乗連いいおのりつら[3]とかいう奴らしい。


京四郎「律は知ってるか?その飯尾なんとかとか言う奴」

律「いや、アタシもそこまでディープに詳しい訳じゃないからね」

少年「お目当てじゃないとすると、気賀きが[4]から浜松の方に下らずに掛川かけがわ[5]の方に行った方が、ええかもしれないですね」


京四郎「何か違うのか?」

少年「天竜川[6]を上流で渡ることが出来るので安うて、楽に渡れるんです」


 なるほど、この時代は川を渡るのも一苦労……。

まぁ、そりゃそうだよなぁ……。


 二日目は、そのまま気賀~掛川までを走破。

少年とはここでお別れだ。


律「二日も付き合ってもらって、なんか……悪いわね」

少年「いえ、こちらこそ楽しい経験でした。ありがとうございます。そういえばお名前を聞いとらんでしたね?」

京四郎「京四郎、松本京四郎だ」

律「山本律よ」


少年「このことは忘れませんよ!お元気で~」

京四郎「おう!弟さんと妹さんにもよろしくな!」

 

 いつそんな話をしていたんだ……。


律「また、会えるといいわね」

少年「律さんに言われると照れる///」

京四郎「やめとけ、やめとけコイツは。す~ぐ手を上げるんだから」

律「大抵アンタが原因でしょ??」

少年「随分仲ええじゃないですか~」


「「コイツはそんな関係じゃない!」」

少年「ほら~」


京四郎「もういいだろ!早く行け!」


 見えなくなるまで少年に俺らは手を振り続けた。


京四郎「あっ……」

律「どうかしたの?」

京四郎「あの坊主の名前聞いてねぇ!」


 そういえば、そうだわ。

なんか坊やってくらい人懐っこい少年だったな……。



■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

[1]今川義元:静岡東部の戦国大名。大河ドラマの序盤で消えがちな人。

[2]曳馬城:後の浜松城。徳川家康によって改名された。

[3]飯尾乗連:今川家家臣。父親が今川の支配下に入ったことにより、今川家の遠江(静岡西部)支配が進んだ。

[4]気賀:浜名湖の北東部。さらに北に行くと『おんな城主直虎』の舞台の井伊谷がある。

[5]掛川:現在の静岡県掛川市。掛川城がある。『シュート』の聖地。

[6]天竜川:諏訪湖を水源として静岡県に流れてくる川。軽巡洋艦「天龍」の由来。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る