怪異退治と相棒

虫十無

相棒

 わたしは今ちょっと怒っている。わたしの相棒に対してちょっと怒っている。けれどわたしが怒っているなんて表現するときの怒りなんて大したことない。ただちょっと怒っていると言いたいだけだ。

「ねえたくちゃん、また一人で内緒でお仕事したでしょ。わたし怒ってるからね。秘密はなしにしようって約束したじゃん」

「ん? そうだっけ……いや、そうだな。ごめん、言い忘れてた。言い忘れてただけで内緒にしてたわけじゃないって」

「もう、報告書被りで上から怒られ……あっ」

「被り……ってことはアキお前も一人で行ったってことじゃねえか」

「それこそ言ってなかっただけだもん。わたし秘密なんて嫌いだから」


 わたしたちは怪異退治の組織に所属している。組織の名前は……忘れてしまった。相棒のたくちゃんはいろんなことを覚えているからきっとそれも覚えているけどわたしはどうでもいいと思うとすぐ忘れてしまう。組織はどうでもよくないだろ、例えば職質されたときとか、ってたくちゃんは言うけどわたしはたくちゃんほど人相悪くないから職質なんてされたことない。

 組織は二人一組での仕事を義務付けている。というのもわたしが昔一人でめちゃくちゃな怪我とめちゃくちゃな成果の両方を一晩でやったから。確かたくちゃんも似たようなことをやったらしいと聞いた。この問題児二人をまとめようと上は考えたのだろうけれど、結果は御覧の通りだ。わたしたちは一人で勝手に動いてそれを二人でやったこととして報告している。だから今回みたいに日付も時間も同じなのに違う場所での報告書を上げてしまって怒られることがある。けれどこれはわたしとたくちゃんをひとまとめにしてどうにかできると思った人がおかしいのであってわたしたちは悪くないと思う。

 秘密は作らない、二人で組んだときの最初の約束だった。わたしが秘密は嫌だなとなんとなく言ったらたくちゃんも同意してくれたから、秘密はなしになった。けれど多分わたしは、秘密にされるのが嫌なので会って秘密にするのは別に嫌じゃない。これはきっとたくちゃんもそうなのだろう。だからわたしたちは秘密にしてたんじゃなくて言っていなかっただけということにする。秘密にするのは隠そうという意識があるとき、言っていなかったのは隠すつもりはなかったけど言う必要も感じなかったとき、という風に一応は分けられるしわたしたちは確かに言う必要がないから言わないことというものをいっぱい持っている。結局わたしたちはあまりにも似ていて、お互い様だからこそ自分に甘くしてもらう分相手にも甘くするべきだろうくらいには思っている。


「で、今回言い忘れてた退治って?」

「わたしは四丁目の線路のあたりの上半身だけの女と二丁目のお寺の裏で走る鞄くらいだと思うけど。そういうたくちゃんは?」

「俺は川っぺりで赤ん坊抱いた女と三丁目のスーパーの周りで踊る野菜だったと思う」

 二人とも二つずつなら少ない方だろう。これも一応二人の拠点をつくって毎日会うようにしているから。これで一週間会わなかったらお互い十や二十言い忘れるどころか報告書だけ上げてそのまま退治したことそのものを忘れるだろう。そうならないように組織の方で調整してほしい。

「ずるいなあ。スーパーの周りの野菜ってなんかいっぱいあったやつでしょ。そういうのこそ連れて行ってよ」

「いやそれを言うなら線路のとこだって定期的にわいて退治しなきゃすぐ増えるとこじゃねえか。確か一か月分くらい溜まってただろ」

「たくちゃんほんとそういうとこの記憶力いいよね」

「当然、退治できるもんを逃したくねえんだよ」

「わたしだってそうだよ。それに今回は報告書あとから出したせいで日時被りの起こられがわたしのほうにふってきたわけだし」

 二人とも怪異退治が大好きで、多分人に言わせるとバトルジャンキーなのだろう。あんまりそういう感覚はないけれど。だからこそお互いの成果を自分がやりたかったと羨む。けれど二人で行くと成果の取り合いになってもっともめるから、だから結局一人で行ってしまうのだ。

 上は本当に何のためにわたしたちを組ませたのだろう。

「でも日時被りで怒られるのももうそろそろどうにかした方がいいよな」

「たくちゃんなんか案あるの?」

「それこそ毎日会ってるんだし、言い忘れなければ時間はずらせるだろ。だから俺がやったのとアキがやったのを合わせて道順とか考えて時間を組み合わせれば一応は日時被りで怒られるようなことにはならないだろ」

「でも……」

「そう、俺たちが言い忘れないとか多分無理」

「だよね。ほんとどうしようか。一緒に行動できれば早いし上もそう思ってるんだろうなあ」

 わたしたちは案がないかをしっかり考えようとする。けれど多分もうそろそろ二人とも飽きてきている。

「とりあえず帰るわ。もう帰ってもいい時間だろ」

「はいはい。勝手に退治しちゃだめだからね」

「はは、アキこそ」

 わたしたちは相手の実力だけは信じている。それ以外は信じていないけれど。だから二人ともまた単独行動するだろう。明日ここに集まるまでに何件やるだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

怪異退治と相棒 虫十無 @musitomu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ