重罪『鳥の間に挟まってるんだよ!?』
「そういやねぎまってさ」
「まーた気になることあったんだね」「そそ」
「それ食べてるから?」「なんでわかった!?」
わかるわ。さっき焼き鳥をテイクアウトしたばかりでしょうが。
コイツは少しでも気になることがあると、友人である私にすぐ話を振ってくる。それ自体は慣れっこだし特に迷惑もしていないので、暇つぶしにちょうどいい。コイツとの馴れ初めは、つい一年前どこかの誰かに話したような気がするので割愛する。
それで今回のテーマは『ねぎま』か。また謎理論が展開されるんだろうなぁ。
「ねぎまってさ、重罪だよね?」
「あ~あ、あんた全国のねぎま好きを一斉に敵に回したね」
「正確には、ねぎまの『ねぎ』部分に罪があると思う」
「ねぎ? そりゃなんで」
「だって……あいつ、鳥の間に挟まってるんだよ!? そんなの……」
あぁ~……そんなの、の続きに来る言葉をなんとなく予想できてしまう。私は着々とこの女に頭を毒されているのかもしれない。アレだろ? どうせ百合だろ?
「そんなの! 百合の間に男が挟まるくらいの重罪じゃん!」
「やっぱりそうきたか」
「さすがウチの『友達』だねぇ! 予想通り、ってか?」
何度話し相手になっても、やはりこれだけは慣れないなぁ。コイツの『友達』発言に、いちいち心を揺さぶられてしまう。
「まああんたの訳の分からない話を何度も聞いてるからね。それで、あんたはねぎをどうしたいわけさ?」
「正直ウチからどうしよう、ってのはないんだよね。だって、商品として出される時にはもう、串刺しの刑は執行されているから……」
「なるほどね。でも、串刺しにされる前は鳥の間には挟まってないじゃん」
「そこ! そこが唯一のねぎかわいそうポイントなのよ! 不慮の事故で鳥の間に挟まってしまったと思えば、いきなり腹を貫かれるって……」
「そこだけ聞けば、ねぎはむしろ被害者側だよね……それでも許せない?」
「……揺れてる。ウチの中で二つの勢力がいるのよ。『葉っぱ風情が……やっぱ串刺しになるべきしてなった感あるよね!?』勢と、『ねぎは悲劇のヒロイン! 二羽の諍いを止めるため、割って入ったところを串で貫かれた!』勢」
「あぁ、うん……どっちにしてもあんたらしいわ……」
「待って! ねぎまでもう一つ気になること降ってきた!」
あ、降ってくるシステムなのね。そういうのって基本『気になってきた!』的な表現しがちだからさぁ……。
「んで、何が降ってきたの?」
「ねぎまの『ま』って……何なんだろ?」
また絶妙に気になるところを突いてきたな。言われてみれば『ま』ってなんだよ! 『ねぎ』はまあそのままじゃん。ま、ま、ま……。
「とりあえず調べてみるわ」「おけ」
私はポケットからスマh……スマフォを取り出し、『ねぎま ま』で調べる。次の瞬間、画面には驚愕の事実が映しだされていた。
「はぇ~、マジか……」
「まの意味、分かった?」
首を縦に振り、ゆっくりとアイツに画面を見せる。
「まぐろの、ま……!? しかも……ねぎとまぐろでねぎま!?」
「うん。鳥はまさかの外様だったよ……」
「うぅ……ごめんよ、ねぎぃ……」
アイツはしばらくうずくまったまま、ねぎへのヘイトを吐いていた自分を恥じた。無力な私は、その様子を見守ることしかできなかった。
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