第20話 河島沙凪の誓い
(作者より:今回は前半が春人視点、後半が沙凪視点になります)
「うっす。青生」
「おはよう、須賀」
偽りの告白イベントを終えた翌日の朝、普段通りに俺はクラスに入ると、前に座る須賀と簡単に挨拶を交わす。
「なあ、昨日何かあったのか?」
「ああ、まあな」
いつものように部活に直行した須賀は、昨日のことなど知らない。
もしかしたら、かなり大々的にやったから風の噂位では知っているのかもしれないけど、それでも俺から直接聞きたいと思っているのかもしれない。
どちらにしろ、こんなことを即聞いてくるということは、ちゃんと昨日のあれは効果があったということ。
明らかに、昨日の朝とは教室の雰囲気が違う。
「本当、よかったよな」
安心したようにそう言った須賀の視線の先には、俺に告白する前と同じように、数人の女子たちと談笑する河島さんの姿があった。
昨日の時点で仲直りは上手く行ったという報告は受けていたけど、それでも実際にその光景を目の当たりにすると、わざわざ骨を折ったかいがあったと思う。
「おはよう、二人とも」
穏やかな朝の教室の光景を見ていると、高見沢さんがやって来る。
「改めて、昨日はありがとうな。手伝ってくれて」
「いいわよ。別に」
淡白な答えではあるけど、少し口角が上がっている。これでレンズの下が笑ってなかったらって……それはまあいいか。
「何だよお前ら、二人だけの世界に浸りやがって」
おやおや、もしかして嫉妬かな、須賀。
普段からあまりこちらが望まなければ深く入ってこない須賀にしては、珍しい。
まあ、はたから見てたら自分だけ会話に参加できていないように感じるだろうし、普段が少し物分かりが良すぎるということもあるけど。
「須賀くん、知らないの?」
「ん、何がだ?」
「この眼鏡、昨日哀川さんに告白して玉砕したのよ」
「えっ、マジかよ……」
あれ、本当に知らなかったんだ。
てか、勝手にばらすなよ高見沢玲奈。
「まあ、元気出せよ……」
「お、おう……」
何か本当に申し訳なさそうな感じで勇気づけられてるんだけど……うん、須賀にはあとでちゃんと本当のことを言っておこう。
何たって、須賀は俺の大事な友達第一号だからな!
それから、俺たちがいつもどおり三人で当たり障りのないことを話していると朝の予鈴が鳴る。そして。
「あれ、どうして河島さんがそこにいるの?」
高見沢さんの前、つまりはまあ俺の左斜め前に、なぜか河島さんが座っている。
「実は、席、変わってもらったんだ」
「へ、へ~」
そんなことできるんだ……って、そうじゃない。
河島さんの元の席は、今までいた女子のグループの近くにあった。
そんな席からわざわざこっちに移動してきたってことは。
「もしかして、やっぱりまだ……」
「あっ、違う、違うよ! ちゃんとみんなとは仲直りできたよ!」
「そ、そっか」
ならよかった。
「でも、それなら……」
「もしかして、嫌だった?」
「い、いや、別にそんなことは……」
とはいっても、俺たちは二人の眼鏡陰キャに一匹狼のはっきりいって寄せ集め集団というのが、クラス内から見た俺たちの位置付けだろう。
わざわざクラス内カースト上位のグループから抜けて、来るほどの場所だろうか。
「諦めなさい、青生くん」
河島さんの行動に納得できずにいると、隣から高見沢さんが諭すように言ってくる。
その言葉の意味は、はっきりいってよくわからないけど、まあこれ以上考えても仕方ないと、言葉通りに受け取っておこう。
「とりあえず、改めてよろしくな」
「うん、よろしくね、春人くん!」
ん、あ、あれ?
今、春人くんっていった?
何か、前より距離、近くない?
「諦めさない、青生くん」
本当、それどういう意味で言ってる?
何か、俺の理想の陰キャの生徒A生活からどんどん離れって行っているんだが。
諦めろって、そういう意味?
だけど、まあ今はいいか。
何よりも今、河島さんが素の笑顔を取り戻せたことが、本当に俺は嬉しいのだから。
※※※
話は一日前に遡る。
私、河島沙凪は、仲直りと同時にあるお願いをみんなにした。
『これからも、青生くんたちと一緒にいてもいいかな?』
もちろんそれは、仲直りしようと言ってくれたみんなに対する拒絶ではない。
ただ純粋に。
『好きな人と、一緒にいたいんだ』
本当に、ただそれだけのこと。
正直、こんなこと言えば、誰か一人くらいには嫌な顔をされると覚悟していた。
でも、周りに嫌われたくないという気持ちより、もっと大事な気持ちが芽生えたのだから、仕方ない。
私は、青生春人くんが好き。
今まで以上に強くなってしまったその気持ちに、嘘なんかつけない。
どうやら、私は自分が思っていた以上に自分の気持ちに真っ直ぐで、空気を読むのが下手らしい。
――応援するよ。
誰かがそう言った。
そして、それは瞬く間に広がっていく。
本当に、みんな空気を読むのが上手だな。
空気を読むのが大事だなんて、主体性がない人間が自分を肯定するための方便だと、何かの記事で読んだことがある。
実際、それは正しいのかもしれないし、私自身、そんな空気を読むという行為が得意と思い込む自分に負い目はあった。
だけど、今、私はそんな行為によって背中を押してもらっている。
本当に、不思議で仕方がない。
そして、そんな体験をしているのは、紛れもなく彼のおかげだ。
ありがとう、青生くん――いや、春人くん!
――私、絶対に君のことを諦めない。
――絶対に、君を振り向かせてみせるよ。
曇り空からのぞき込む太陽を見つめながら、私はそう誓った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます