陽キャリア充生活に疲れた俺が、陰キャの生徒Aとして高校デビューする話

9bumi

第一部

第1話 陽キャリア充ってやつは、すごく疲れるんだ

 高校に入ったら、絶対に高校デビューしてやる!


 中学最後の部活の試合――俗にいう引退試合を終えた瞬間、俺こと青生春人あおうはるとはそう誓った。


 ちなみに、俺の言っている高校デビューってやつは、みんなが思っているようなものとは違う。

 

 高校デビューと聞くと、俺を含めてほとんどの人がきっとこう思うだろう。


 消極的だった性格を積極的なものに。

 暗い印象がある容姿を明るいものに。

 高校入学と同時に変える。


 ところが、俺のいう高校デビューってやつは、その真逆。


 積極的な振る舞いを、面倒ごとに巻き込まれないような日和見主義的ひよりみしゅぎてきなものに。

 眩しく爽やかな容姿は、周囲から嫌われない程度に暗く、地味なものに。

 それぞれ変えるのだ。


 えっ、どうしてそんなことをするのかって?


 まあ、普通はそう思うよな。俺だって、自分がそれを客観的に聞く立場ならそう思う。


 だから、教えようじゃないか。


 こんな決断を俺がした理由。


 陽キャリア充ってやつが、すごく疲れるってことをさ。


         ※※※


 くせのない直毛気質で爽やかな印象を与える黒髪短髪に、クールな印象を与える整った目鼻立ち、そして身体は細身ながらも筋肉質で、身長は180センチ。

 勉強は常に試験で学年トップ3に入り、部活はサッカー部で全国大会出場、しかもポジションはフォワードで、エースストライカー。

 委員会活動やボランティア活動を始めとする、学内のあらゆる面倒ごとに積極的に参加し、その恩恵で交友関係も非常に広く、学内では当然のように人気者。


 誰がどう見ても、陽キャでリア充にしか思えない要素を詰め込んだ男、それが俺こと青生春人の中学時代だった。


 当然、こんな中学時代だったと聞かされれば、多くの人はいいなとうらやむはずだ。俺が特にこれといって取りえのない生徒Aで、これを聞かされる立場なら、間違いなくそう思う。


 ただ、俺から言わせれば、そんな生徒Aのほうがよっぽど羨ましい!

 

 輝かしいってことは、それと同じ分だけ闇があるってことでもあるんだ。


 例えば、一番よくあるのが恋愛沙汰。


 俺はよくモテる。理由はいうまでもないよな。


 そういうわけで、他の男子が好きだった女子が、俺に告白して来るなんて日常茶飯事にちじょうさはんじで、それが原因で当然のように嫉妬や妬みを向けられる。


 これは人が心を持っている以上、仕方がないことだからまだいい。もちろん、本当は嫌だけど。

 

 問題は、そういった感情を、本人が上手く自分の中だけで消化できず、嫌がらせっていう形で表面化してしまうこと。


 机の引き出しやロッカーに嫌がらせ程度に紙くずが入れてあったり、親切心で貸したノートへの落書きだったり。他にも挙げれば切りがないほどの些細な嫌がらせを、俺は受けてきた。


 もちろん、やろうと思えば報復するなりして、そういった嫌がらせを終わらせることはできた。しょうもない嫌がらせをする程度の奴らなら、自分でしめることはできるし、何ならそういったことが得意な奴らにも当てはあった。


 けど、それは当時の俺の立場が許さなかった。


 報復すれば、多少はクラスの雰囲気が悪くなる。その原因がリーダーの俺にあるならなおさらだ。


 そうなったとき、誰が悪くなった空気を元に戻さないといけないと思う?


 それは、クラスのリーダーだった俺。


 クラスのリーダーってやつは、クラス内の雰囲気をコントロールしなきゃいけない面倒な立場なんだ。


 自分でクラスの雰囲気悪くして、自分でもう一回わざわざもとに戻す。


 こんなに面倒で、非効率的で、馬鹿馬鹿しいことなんてないだろ?


 彼女を作らなかったのも似たような理由だ。


 俺が告白をOKすることで、少なからず相手の子にヘイトが集まってしまう。


 それがクラスの子なら、クラスの女子の雰囲気は最悪だし、例えクラスの女子でなかったとしても、その子の周辺の人間関係はほぼ間違いなく悪化。最悪の場合、俺の目の届かないところで、嫌がらせを受けるかもしれない。


 そうなったら、それらの面倒事を解決するのは、その原因を作った俺しかいない。


 まあ、こんな感じで、俺は眩しすぎるような数々の要素と引き換えに、それ相応の闇を抱え、自分を犠牲にしてきたわけなんだけど……

 

 正直いって、そんな人生に俺は疲れた。

 

 もちろん、陽キャリア充でいることで、楽しいことやいいことはたくさんある、それは知っている。


 だけど、それ以上にそういった輝かしいものにつきまとう闇から解放されたいと、あの時、強く思ってしまったんだ。

 

 それは、全国ベスト8をかけた試合に敗れて、引退が決まった瞬間。


 俺はサッカー部のエースという立場と、それに伴って集まる嫉妬や妬み、またそれらを起因とする嫌がらせから、解放された。


 その事実がもたらした開放感は麻薬だった。俺を縛る他のすべてのものから解放されたいという、強い欲求をもたらす。


 俺はその欲求に抗うことはできなかった。


 そして、俺は誰かから嫉妬や妬みを向けられることのない、人畜無害で陰キャの生徒Aとして、高校デビューすることを決意したというわけさ。



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