初詣の絵馬

最時

第1話 秘密の絵馬

 元旦。

 しっかりと着込んで近所の神社へと向かう。

 まずまずの天気だが、やはり寒い。

 

 小さな神社だが、近づいていくと初詣に行くであろう人達がまあまあいた。

 お正月だなと改めて感じた。


 入り口の鳥居の前にあいつがいた。


「遅いっ!

 寒いんだけど」


「いや。

 遅いってまだ待ち合わせまでまだ五分ほどあるけど」


「はあ~

 ツバサよね~

 こういう場合は待たせてゴメンって言うのが社会のルールなのよ」


「失礼しました。

 だけどそれを言うんだったらまずは明けましておめでとうだろ」


「また、お正月だからって重箱の隅をつつくようなこと言って」


「それ、上手いこと言っているつもりか」


「もう、新年早々何でツバサと顔合わせなきゃいけないんだろ」


「こっちのセリフだ。

 俺はヒカルと行きたかったんだよ」


「しょうがないじゃない。

 ヒカル体調悪いみたいだし。

 代わりにわざわざ私が来てあげたんだから感謝してよね」


「・・・ ありがとうございます」


「変な間があったけど、まあいいわ」


「ヒカル、昨日お前のとこ行ってたんだろ。

 どうだった?」


「昨日は元気だったんだけど。

 早く良くなると良いね」


「そうだな」


「ヒカルの分も詣ろ。

 行こ。」


 そう言って俺に寄って、ジャケットのポケットに手を突っ込んで指を絡ませてくる。


「おい」


「手袋忘れちゃって」


「自分のポケットを使えよ」


「この方が暖かいんだから良いじゃない」


 こいつの匂いや小さな手に触れてなんとも言えない感じがした。



「とりあえずおみくじしよ」


「好きにしてくれ」


 おみくじは大吉だった。

 もうじき大学受験だ。

 単なるクジだが気分が良くなった。


「大吉。

 お前は?」


 目の前につい出されたクジは凶だった。


「凶!

 はははははははは

 初めて見た。

 本当にあるんだな」


「ちょっと、笑いすぎじゃない。

 タダのクジだし気にしないわ」


「いや。

 神様はちゃんと日頃の行いを見ているんだよ」


「自分が良かったからって、次ツバサは引くときまでそのセリフ忘れないでよね」


「はいはい。

 俺は大吉に決まっているけど」


「はいはい」



 お参りを済ました。


「受験生だし一応絵馬書きましょうか」


「そうだな。

 だけどお前も地元受けるとはな。

 東京行くかと思っていた」


「まあ、東京は東京で良いこともあると思うけど、やっぱり地元が楽だし、良い大学だと思うし」


「そうだな。

 だけど合格したらまたお前と同じ学校。

 腐れ縁だな」


「それこそこっちのセリフね。

 ツバサこそ東京でも行ったら良いじゃない」


「残念ながらお前と違っていろいろな意味で選択肢が多くないんだよ」


「いろいろって言うか学力の問題でしょ」


「さて、絵馬書かないと」



「ツバサなんて書いたの?

 大学合格って、もっと具体的に書いた方が良いんじゃない」


「いいんだよ。

 お前はなんて書いたんだよ」


「秘密よ」


「はあ?」


「こういうのは人に見せたらいけないのよ」


「人のをのぞき見てよく言うな。

 って言うかそんなの初めて聞いたぞ」


「時代は変わるのよ」


「はあ、やっぱちゃんと神様は見ているな。

 お前は凶だよ」


「はいはい」



 鳥居の前で別れる。


「マナも風邪とか気をつけろよ」


「お互いね。

 また休み明け」


 ツバサと別れた。


 ツバサとヒカルがそういう関係になるなんて私としたことが油断していた。

 ごめんねヒカル。

 安静にしていればそんなに悪くならないから。

 そもそもヒカルを選んだツバサが悪いのよ。

 それこそ凶よ。

 私はこんな占いみたいなの信じないけど、絵馬って目標を文字にするって良い事だと思う。


「ツバサを私のにする」


 今年の目標だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

初詣の絵馬 最時 @ryggdrasil

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ