第7話 恋する乙女はお布団をかぶる

「お待たせ、私のこと待った?」


(お布団をかぶる音)


「――ぐへへ、そうなんだー。寂しかったんだー」


「今日のライブお疲れ様。

 最高オブ最高だったよ。

 可愛いとかっこいいの連続パンチで息できなかったし」


「あ、あとライブ中、私のこと見つけてくれたよね?

 あんなに分かりやすく私に向かって投げキッスとか、危ないからね」


「私たちが付き合ってること、バレちゃうかもよ?」(囁き声)


「――え? バレたっていい?

 俺は本当に君とずっと一緒にいたいと思ってる?」


「そ、そんなことー誰にでも言ってるんでしょ。

 私は今こうやって二人でお布団の中でお喋りできるだけでいいの」


「――俺は、それだけじゃ我慢できない?」


「だ、ダメだよ~。

 ……そんなに見つめてもダメなものはダメ」


「もーみんな私のこと大好きなんだね。

 ……あっ、そうだ」


(お布団から出て新しい抱き枕を取って戻る)


「――こいつは俺のもんだから勝手に取るな?

 えーっ、私ぃ、いつからなーくんの女になったのよっ!」


「――俺のほうが私を幸せにできる?

 それってファンとして? それとも、恋人として?」


「――私を幸せにできるのは俺だけ?」


「へへへへ、私のために、争わないで~」


(抱き枕を二つ抱き寄せる)


「仕方がないから、二人はこれで我慢してよね」


(んーまっ、と抱き枕にキス)


「お口が寂しそうだね、私が埋めてあげるっ」


(んーまっ、と抱き枕にキス)


「えー、なになに照れてんの~?

 もー私にだけは素直になっていいのよ?」


(スマホのバイブレーション)


「――え? 嘘、でしょ?

 あの人気アイドルグループのメンバーが結婚?」


「……なんで? なんでなんでなんで?」


(布団を手でくしゃくしゃにする音)


「……あ、そうか。

 これが最近よく聞く、フェイクニュースってやつね」


「もー驚かせないでよっ!

 私がいるのにほかの女と結婚するなんてありえないよね?」


(スマホをスワイプする音)


「――はっ?

 何この『大切なお知らせ』って?」


「いやだ、いやいやいやいや。

 ……だって、言ってたよね。君だけの王子様って」


(息が荒くなる)


「ひどすぎる、こんなの裏切りだよ。

 ……私が世界で一番愛しているのに」


(片方の抱き枕を蹴とばす)


「はぁー♡」


(抱き枕が変形するほど抱きしめる)


「すーきっ」(囁き声)


「しゅきしゅきしゅーき」(囁き声)


「愛してる、愛してる」(囁き声)


「……次のライブ、楽しみだね」(囁き声)


「ずぅーっと、一緒にいようね。

 あの世で」(囁き声)



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る