その答えは……
横山記央(きおう)
その答えは……
秘密にはいくつか種類がある。
誰にも言えない自分一人だけの秘密。
誰かと二人で共有している秘密。
集団で抱えている秘密。
その秘密がもたらすのは、優越感と、仲間意識だろうか。
それとも罪悪感と孤独なのか。
秘密と似ているものに謎がある。
知っていても言えないのが秘密で、解き明かすまでわからないのが謎。
どちらも、知りたいという欲求を満たしてくれる点は共通している。
秘密を扱う職業の一つに弁護士がある。
他にも、弁理士、司法書士、行政書士、税理士、社会保険労務士、土地家屋調査士などのサムライ(士)業に就いている人達は、何らかの秘密を知る機会が多いはずだ。株価を動かすような重大な情報から、企業や個人の財政状況や取引の状態、または、個人間の好悪の感情など、知り得る秘密は、数え切れないほどだろう。
しかしそれをみだりに他人に漏らすことはできない。守秘義務違反として罰せられるからだ。仮に罰せられなくても、倫理的あるいは道義的見地から、他人に教えるのは好ましくない。
法律や道徳感によって、秘密は守られていると言える。
法律に関わる職業でなくても、守秘義務が課せられることがある。例えば、新製品に関する内容だ。それがどのような形状をしているのか。どんな機能を持っているのか。どのくらいの価格でいつ頃販売されるのか。
発売される数ヶ月、あるいは数年前には、その商品の開発はスタートしている。発売時に十分な数を揃えるなら、それを生産する装置は稼働していなくてはならないからだ。
新商品ではなく、すでに世の中に広まっているものであっても、そこに使われている特殊な技術や革新的手法を、公にできないこともある。
特許を取ればその内容は法律が保護してくれるが、情報を公開していることになる。本当に秘密にしたいなら、特許は申請しない方がいい。
大きな秘密でなく、身近な所にある小さな秘密ということなら、個人に関する情報は今の時代ではどれも秘密に該当する。他にも、自分だけが知っている釣りのポイントや、キノコの自生場所、秘伝の調味料だって秘密になる。
つまり、世の中は秘密にあふれているし、誰もが秘密を抱えている。
こう言うと、秘密という言葉に、どことなく後ろ暗い雰囲気が漂ってくる。
でも秘密はそれだけじゃない。
好きな人が一番ステキに見える角度だったり、ペットの何気ないしぐさだったり、早朝出勤や深夜帰宅の誰もいない空間でみつけたお気に入りの景色だって、胸の中にしまっておけば、秘密になる。
「二人だけの秘密だよ」
恋人同士の甘い語らいも秘密の一つだが、残念ながら、そのような甘美な秘密を持った記憶はない。生きていれば誰しも秘密の一つや二つは抱えてしまうのが、人間という生き物だろう。
もし私が、誰にも言えない秘密があるかと聞かれれば、その答えは決まっている。
「それこそ、秘密です」
その答えは…… 横山記央(きおう) @noneji
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