週間少年スカイハイ

筆開紙閉

バイバイ

 いくつものアニメ化作品を抱える週間少年誌スカイハイにおいて俺たちの漫画は常に巻末を行ったり来たりしている。スカイハイにおいて読者アンケートが悪いと掲載順位が下がり、最悪打ち切りになる。俺たちは崖っぷちに立っていた。

 こんなときは雑誌の枠を空けるしかない。

「殺すぞ」

 兄が同じ雑誌に乗る他の漫画家の顔写真をダーツの的に貼り付けていく。同業者の住所は編集部のデスクを荒らして入手した。

「ああ」

 俺がダーツを投げて殺す相手を選ぶ。ダーツは鵺乃先生の顔写真に刺さった。

「鵺乃先生にはお世話になったが……殺すしかない。まだこの漫画を描いていたい」

 兄は鵺乃先生のアシスタントだったことがある。だがそんなことは関係ない。スカイハイで連載を続けるのは俺たちの夢だ。

「兄さん、手を汚すのは俺だ。気にしないでくれ」

 俺は兄の漫画の続きをまだ読んでいたい。俺は得物を掴んだ。

 鵺乃先生の部屋があるアパートの前に張り込む。鵺乃先生は毎日ファミレスで遅い夕飯を食べる。行動ルーチンがあるタイプの漫画家は襲い易い。俺たちがアシスタント時代はたまに奢ってもらったものだ。

 アパートの階段をスーツ姿の女が降りてくる。鵺乃先生だ。

 ゆっくりと鵺乃先生に近寄っていく。俺の間合いに持ち込んだ。

「君はカグラ兄弟の弟の方じゃないか?」

 鵺乃先生はジャケットの下に手を入れた。ショルダーホルスターから拳銃を何時でも取り出せるように。同業者が掲載紙のイベントや編集部の企画した忘年会以外でわざわざ会いに来るなんて襲撃に決まっている。特に掲載順位の低い作家が上の作家に会いに来るなんて。

「カグラ兄弟の左天、先生の御命を……頂戴します」

 仕込み傘から刀を引き抜き、鵺乃先生の首筋を狙う。アドレナリンが放出され、時間がスローに感じられる。銃弾が俺の頬を通り過ぎる。俺の刀が鵺乃先生の首を切り落とす。

 誌面に枠が空いた。

 俺は兄を兄と呼んでいるが、俺と兄に血のつながりはない。お互いの親の連れ子だからだ。

 兄は俺を救ってくれた。俺に暴力を振るう父を殺してくれたからだ。

 だから俺はその恩に報いるために兄の邪魔をする者を殺す。兄の夢であるこの誌面での連載を続けていたい。俺の夢は兄の見る夢と同じだ。

 だがしかし、人を殺して生きてきたのだから、当然自分たちの番もやってくる。

「鵺乃先生の仇討ちじゃあ!!」

 ある日突然俺たちの部屋に鵺乃先生のアシスタント一同がやってきた。

 各々が銃火器で武装している。兄は散弾で頭を吹き飛ばされた。肉と血と骨の混ざったものが壁に飛び散った。

 俺は反撃もせずに兄だったものを必死に頭部に詰め直そうとする。兄が死んでしまっては連載が終わってしまう。俺一人では続きを考えることなんてできない。

 そのうちに俺にも銃弾の雨が降り注ぎ、俺と兄だったものは区別のつかない血肉の染みとして一つになった。

 

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