白桃


よあけまえ

寝床からくずかごを眺めると

腐りかけの白桃がひとつ

産毛をさらしまどろんでいる

ほおがちり紙にまみれたって

崩れないのはおだやかさで

文句のひとつも実らない実

わたしがふて腐れていく音


ゆりかごの蛍光色が

両目を費やす頃合いに

まどろみたいねと呟いたって

けなげな可食部は

しぬのをやめない

だから痛味を感じるのだ

のこりものの嫌味だった

おさなさが饐えていく味は

資格もないのに目にしみる

なにもしなくても腐らない

手足がにくくてたまらないや


紺のくらがりが糖をふくんで

でっぷりねころぶ頃合いに

ほおを伝うのが蟻だとしても

いかりの捨て場は見当たらない

にくらしいったらにくらしい

くにくが川を流れていくよ

もうまどろんでしまいたいね

そらに浮かれた満月だって

腐って床に落ちればいい

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