汽水域


わたしたちはみんな汽水域でうまれた

ほどよい塩気がほそい髪からふあふあ匂っていた

清潔なタオルとぬくもり代わりの栄養さえあれば

それだけで満足だった

からだの線をきれいだねとほめ合って

波の泡立ちがいつまでも眩しかった


けれどいつからか潮目を決めてしまった

ワンピースと真珠と人を殺せるような

とんがったカカトが必要になった

そうするのがなんだか正義みたいな青空の下で

みんながおまじないを唱え隊列を組んでいた

正直 寒気がしたのは内緒の話だったけれど

低気圧に慣れていくわたしのからだは

あわい流線形にかたちを遂げ始めた


おまじないに耳を裂かれ

嫌気のさした君はうろこを捨てた

捨ててしまってなにを得たのか

しろいつばさをさっぱり生やして

水とは違った青の深さを

探しに行ったに違いなかった


わたしは君とは違った

この温度がすっかり肌になじんでいた

それでも ほどよい塩気に塗れていた

わたしたちのきれいなからだのこと

汽水域に浸って時折思い出した

青の境目にはなにがあるのか

かもめはいつだって変わらずに鳴いていた


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