大人気キツネ系美少女アイドルと社畜のイチャ甘新婚ライフ。
カミトイチ@SSSランク〜書籍&漫画
第1話 あの日の約束
――仕事帰り。雪の降るある夜、アパートの前に一人の女性が立っていた。
寒空の下、小柄な女性が家の扉によりかかっている。
白いニット帽を被り、白いマスクをし、白のダッフルコートを着込んで居る彼女。
勿論、俺の知り合いではない。生まれてから今まで、彼女いない歴26年。誰かと付き合った事もないので部屋に訪ねてきた彼女なんてことはない。
「あの、家に何かようですか」
「......あ」
彼女は考え事をしていたのか、呼びかけてはじめてこちらの存在に気がついたようだった。
「黒崎、傑さん......!」
「え、そうですけど」
如何にも。俺は
なんで俺の名を知ってるんだ?この人は誰......?
「えっと、あなたは......」
そう名前を聞こうとした瞬間。ぼふん!と彼女は倒れ込むように俺の胸に飛び込んできた。
(おおお!!?)
「はっ......あ、なっ、え!?」
「ああ、やっと見つけた!本当に......本物の傑さんだぁ!!」
「!?!?」
香水なのか甘い花のような良い匂いが彼女の体から漂う。それだけでもくらくらするのに、さらには彼女のふくよかな胸が押し付けれていて意識が飛びそうになる。こ、コート越しなのにわかる......なにこれヤバい!!すげー大きぃ!!
じゃない!!と、抱き締めたくなる下心を抑え込み、なんとか俺は彼女の腕を掴み引き離した。
「きゃっ」
「あ!?ご、ごめん!痛かった!?」
彼女はふるふると頭を横に振る。
「なんもなんも!だいじょーぶですよっ」
「そ、そっか......」
「と、言うより私の方こそ失礼しました!しばらくぶりです、傑さん!」
そういうと、彼女はニット帽とマスクを外す。するとぴょこんと頭の上に普通の人間にはあるはずのないものが生えていた。
「......それって」
俺が指をさすその先にあるのは、狐の耳だった。ハッとして手で耳を触る。
「あ、耳がっ......ま、まあ、誰も見てないですから大丈夫でしょう!」
真っ白な毛並みのぴょこぴょこ動く獣耳。舞い落ちる雪のように純白な腰まで伸びる長い髪。
切れ長のツリ目は、瞳が実家の猫のように瞳孔が縦に伸びていてルビーのように紅い。
少し厚い薄ピンクのリップに彩られた唇。そして、彼女が言葉を発する度にちらりと見える長い犬歯。
「あのぅ、私の事......わかる、かなぁ?」
そう言って彼女は自分を指さした。
不安げな声色。細い目がさらに薄まり、それがやけに色っぽく感じる。
「ああ、抱きしめられた時に気がついたよ.....その呪力......君は妖狐がモチーフなんじゃなくて、ホントに本物の妖狐だったのか......」
その時、先程までの細い目がまんまると見開かれた。口がぽかーんと開かれ、彼女は顔をずいっと近づけてくる。
「な、な、んなぁ!?......き、君!?そんな他人みたいな呼び方ひどーい!!十年ぶりの再会なのにさあーぁ!!」
むきーっ!と彼女は俺を睨みつける。思わず一歩後退し落ち着けと手のひらを前にだし、スペースを確保。ちょっと近すぎ、ダメ。心臓壊れちゃうから。
いや......ってか、今なんて言った?
「は?再会......?誰かと勘違いしてるのか?君みたいな人気アイドルと知り合いになった覚えはないが......?」
そう、覚えはないし面識もないが、俺は彼女を知っている。いや、俺だけじゃない。おそらくはこの国に住む大体の人間は彼女を知っているだろう。それだけの知名度を誇る。
なぜなら今目の前にいる彼女は、大人気美少女アイドルグループ【ナンカ妖怪!?】のセンターで、絶対的エース。
妖狐をモチーフにしたキャラクターで、その人気は世界的。チャームポイントである獣耳はホンモノそっくりと驚かれ、バラエティー番組ではおっちょこちょいキャラで笑いを取り愛され、YooTubeチャンネルでも登録者680万人という他のアイドルの追随を許さない人気ぶり。
そういや、そんな彼女がこの田舎オブ田舎。北海道の山々に囲まれた小さな町に......っていうか、こんなところになぜ居るんだ?
しかも俺の名前を知ってるとか......有り得ねえだろ。いったいどーいう事だってばよ。
マジでこのカオスな状況を誰か説明してくれ。わけがわからな過ぎてガチで怖くなってきたんだが。
んんー?と腕を組み何かを考えていたエマさん。ふとなにかを思い出したようで、彼女は両の指先を合わせ「......あ、そっか!」と呟いた。
「そうだ......そうですよね。傑さんは人の姿を知らないんでした。すみません、びっくりさせてしまって」
「え?」
「私、昔あなたに助けてもらった白狐です」
その時、ふと脳裏に過る記憶。俺がまだ高校一年生の頃か。地元の裏山で弱り切っていた白狐に呪力を分け与えてやったことがあったな、そういや。
「お前、あの時の......」
「思い出されましたか!?そうです、あの時の!」
「そうか。もうすっかり......しかもこんなにも立派になって。驚いたよ」
まさかあの日行き倒れていた妖狐が、世界的人気のアイドルになっていたとはな。しかも礼を言いに訪ねてくるとは。
「あなたが命を救ってくださったから、今の私があります!本当にありがとうございます!」
「いやいや、たまたまだよ」
「たまたまでも命の恩人には変わりないです。私は傑さんに救われました。もはや私の命は傑さんのモノといっても過言ではありませんよ」
「あはは」
いや過言でしょうよ。なに言ってんだ......って、あ!ここツッコミ入れるトコ!?しまったミスったか!?
これだから女の子と会話慣れしてないやつは......ま、まあいい。
「ていうか、よく俺の住んでるところがわかったな?」
「はい!でも、ずっとずーっとさがしてましたからね!仕事であちこちいったりするんですけど、その時にちょこちょこと捜索してて......傑さんの呪力と匂いはちゃんと覚えていたので」
「そうか、なるほど」
確かに妖狐である彼女なら呪力や匂いを辿ることは容易いか。......いや、できるが容易くはないな。
大変だったろうに。
「わざわざ来てくれてありがとう。けど、こんなところ誰かに見られたら大変だろ」
「あ、ですね。ではお邪魔しまーす!」
「え?」
「ん?」
互いに顔を見合わせ、不思議な空気が流れる。いや、だって部屋入るの不味くないか?この子大人気アイドルだぞ。普通に誰かに見られたりスクープ撮られたらヤバくないか?
てか、この場面ですら見られたら危ないと思うんだけど。
「......家、入るの?」
「?、それは、はい......め、迷惑ですか?」
「いや迷惑というか、アイドルでしょ?男の部屋に入るところ撮られでもしたら大変でしょう。炎上しちゃうだろ」
「それは大丈夫です!私の尻尾でつくった分身体が代わりにアイドルのお仕事しているので!私はノーマークです!」
分身体......まあ、妖だからそんなこともできるのか。
「あ......へえ、そうなんだ」
彼女があまりにもあっけらかんと言うもんだから、ちょっと間の抜けた返事になってしまう。
「それに、私、今日は約束を果たしに来たんで、追い返されると困っちゃいます」
「約束?」
「ほ、ほら、あの時......私のこと」
――脳裏に蘇るあの時の記憶。
横たわる白狐。俺は損傷していた腹部に手を当てる。
『......私を治して、大丈夫なのか』
白狐がこちらを睨むように見てくる。多分、この傷は呪術師にやられたものだろう。敵意に満ちた視線が良い証拠だ。
だが、こいつは悪さをして狩られかけている訳じゃ無い。俺はこいつが人を助けているのを見たことがある。
「大丈夫。妖だからってだれかれ構わず滅するのは、俺は嫌いだから」
それにどのみち俺には呪力で癒やす事しか出来ない。
「それより、お前エキノコックスとか持ってないよな?」
『え、えきの......?』
「あ、いや。大丈夫」
まあ、妖怪だし持ってないだろ。と、流し込んだ呪力で傷が塞がったな。
「これでよし。早く行け。追手がくるぞ」
『......ありがとう。何か、礼をしたいのだが』
追われてるってのに律儀な奴だな。まあ、今後付き纏われても困るし、無理難題言ってソッコー諦めせるのがいいな。
そうだ!
「彼女が欲しい」
『......彼女?』
「そうだな。アイドル級に可愛らしい彼女が良いな」
『あ、あいどる?』
よし、困惑してるな。理解できないって表情してる。いいぞ。
『彼女、というのは......もしや許嫁みたいなものか?』
「許嫁?あー、まあそうそんな感じ。アイドル級に可愛い子を嫁にできたら幸せだな」
『そうか。わかった』
「ああ、わかったか。ならもう行け。すぐそこまで追手が来てるぞ」
『ありがとう。それじゃあいどるになって嫁に行くから。したっけね』
「ああ、したっけ元気でな」
......ん?
――
「......約束って、まさか」
にこりと微笑み、瞳をうるませた彼女が言う。
「私、アイドルになりました。嫁入り修行もして、自分磨きもしましたよ。だから」
約束......許嫁......嫁入り。
「約束通り......私を、お嫁に貰って下さい。傑さん」
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