君の光が照らす未来
秋の訪れとともに、山の樹々が一斉に葉を落としていく。
山間の小さな谷では、全国各地から避難してきた人々が寄り集まって暮らしていた。まだ家らしい家は建っておらず、小さな難民村では遊牧民たちの持ち込んだ大きな
「
「
いつもおかずを差し入れてくれる白岩族の女性は、政府の爆撃で家族を全て失ったそうだ。そのせいか、
「いいのよ。あなたたちが喜んで食べてくれると、また家族ができたみたいで嬉しいわ」
「では遠慮なく」
「そろそろお兄さんたちも帰って来るでしょう? 今日も何事もないといいけど」
「兄たちなら、何があってもきっと平気です」
ついでに食料となる木の実や獲物を持ち帰るので、難民たちからは一目置かれているようだ。
「故郷を出る時は、なぜ私だけ生き残ってしまったのかと思ったの。でも、こうしてあなたたちといると、生き延びられて良かったと思うわ」
「ええ、本当に」
少し哀し気な
「そろそろ兄が帰るので、様子を見てきますね」
「家族、か……」
かつても見た降るような星空に、今は亡き家族を想う。
厳しくも優しい父の眼差し、姉たちや弟の笑顔、甘えてくる羊たち、草原を照らす銀の月……美しい想い出の数々は、遠い先祖から連綿と受け継がれてきた部族の暮らしそのものだ。
そして、自分たちを「家族」と呼んでくれる
「父さん、母さん、みんな……俺たち、新しい家族と新しい部族を作るよ。そしていつか、みんなの故郷を取り戻す」
目の前に広がる茫漠たる未来は、暗い夜の闇を手探りで進むようなものだ。
それでも夜の闇を月が、星々が照らすように……愛する者たちがくれたささやかな心の光が、進みゆく道を明るく照らしてくれるだろう。
そして、いつの日か、あの懐かしい草原へと還るその時まで。どんなに悩んでも迷っても、決して留まることなく歩み続けてゆく。
それが、自分たちが彼らに捧げることの出来る唯一の誓いだ。
「今帰ったぞ」
月明りに照らされて、手を振る
「お帰りなさい」
新しい家族と共に歩む、再生への道を。
砕けた月 歌川ピロシキ @PiroshikiUtagawa
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