第8.5話
サシャの暮らす国は滅んでいた。
魔物の暴走―スタンピードによって。
カリムとセシルとピリカの三人はサシャの暮らす国の隣国の者だった。
彼らの国は壊滅こそ免れたものの、まだ治まらぬ魔物の暴走に疲弊していた。
国家の総力をあげて魔物の討伐にあたっていたが、いくらでも湧いてくるのできりがなかった。そこで誰かが言い出した。魔物の発生地を叩かねば、と。
しかし、国に溢れるように流れ着く魔物の討伐だけでも精一杯な状況で、大元である発生地まで辿り着く余力はどこにもない。
そしたらまた誰かが言い出した。以前、鳥のような物体が王族の住まう宮殿を偵察していたことがあったと。この話はまことしやかに噂されていて、王族含む宮殿関係者の大多数に知られている話だった。
鳥のようだが、鳥ではない。なぜなら、腹に鏡のような格子を抱えており、鳥が見るものを明らかに写し取っていたからだ。
これはカリム達の国にはない魔法であると考えられた。おそらく隣国のスパイ……。
しかし、今はそのようなことは言っていられない。その鳥魔法さえあれば、少なくとも魔物の発生地の様子を見ることができるだろう。また、その鳥魔法が何かを運ぶことができるのなら、爆薬でも持たせれば、人的損害のないまま大元を叩ける。
そのスパイと思わしき者の研究内容を知る必要があったのだが、それこそ困難を極めることが明白だった。なぜなら、隣国はすでに滅びているから。
王族であるカリムは、王命により鳥魔法を使う者の捜索に当たることとなった。なぜなら、宮殿で鳥魔法を見たその本人だったから。
カリムは鳥魔法に怪しげな気配を感じるとともに、夢があるようにも感じたものだった。――魔法にはこれほどまでの可能性があるのだな。と。
カリムたち鳥魔法捜索隊は困難な道を辿るかと思ったが、その手がかりはあっけなく見つかった。国の魔法研究機関に、差出人不明の
研究機関の者に尋ねると、レポートは以前から定期的に送られてきており、驚愕的な内容ばかりだった。しかし、自国の研究員達では理解の及ばない物が多すぎた。説明もできないものを国に報告する事はできないからと、保留にされていたとのこと。
重要な研究報告を秘匿した。そのことに関する処罰はひとまず置いておき、カリム達は研究員たちにある命令を出した。
使われている紙の素材や、付着している微かな埃、花粉、髪、糸くずの分析。書かれた内容から推察できる僅かな情報。それを調べさせた結果、差出人を絞り出すことができた。
それが、サシャ・エンリケであった。
カリム達は長い旅に出た。魔物の達に蹂躙された隣国を縦断するのだ。
襲いくる魔物。不足する食料。重傷を負って荷馬車に乗せられるものも増えてきた頃、カリム達は自分達が目指すところに辿り着いたことに気がついた。
なぜなら、目の前には摩訶不思議な光景が広がっていたから。
絵本の中でしか、もしくは古めかしい教典の中でしか見たことのない妖精たちが、その土地には溢れていた。
見たこともないイモのような人形も動いていた。それぞれに似合った家を作り、庭をもち、ペットを飼い、馬車(?)に乗っていた。
その家どれもがカリム達の膝丈もない。しかし、目の届く範囲、広大に広がる不思議な村。その中心に佇む寂れた屋敷。
それを見てカリムが呟く。
「……ここが、大魔術師サシャ・エンリケ卿の屋敷か」
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