第7話
ある時から、なんとなく違和感を覚えるようになった。両親が訪れなくなったのだ。今までは、誕生日と、新年と、『家族の日』という皆が集まる祝日には部屋にまで訪れて来てくれていたのに、それが無くなった。
それだけではない。使用人の気配も感じなくなった。今までは、部屋の前に食事が置かれていたのだが、しばらく置かれている様子がない。
実験中に扉を開けると危ないから、扉は開けずにご飯を乗せたワゴンだけ置いておくようにお願いしていた。そのうち、魔法で遊び過ぎて食事を忘れることが増え、せっかくの料理が冷めてしまうので、勿体ないから要らないと伝えた。
使用人達は驚いたが、「誕生日にもらった鶏達が生む卵や魔法で植えた野菜などがある。料理もできるので、問題ない」と伝えた。それならばと、デザートだけは置いていくと使用人達が言い張ったので、その時から常温でも美味しく、長持ちするデザートを置いてくれていた。
そのデザートすらいつの頃からか、置かれなくなった。
とうとう見放されてしまったのだろうか。部屋から一歩も出てこない娘に、多忙な両親が愛想を尽かしても全くおかしくなかった。他に何人か兄弟もいたから、なおのこと引きこもりの娘にばかり構っていられないということだろうか。
引きこもる生活に慣れすぎてしまったので、外のことなどどうでもいいという思いと、やはり寂しいなという思いが入り混じり、しばらくはそのことを考えないでいた。
食料は魔法でどうにでもなるし、友達も妖精がたくさんいる。何の問題もない。
しかし、胸の中にずっとしこりは残っていた。会う機会は少なかったが、優しかった両親。自分なりに研究も頑張っていたのにな。
何とは無しに部屋の窓を久しぶりに開けてみた。本棟の方には誰かいるかもしれないと頭のどこかで思っていたのかもしれない。
そして、目の前に広がる、想像を超えた事実に愕然とした。
目の前には何も無かった。誇張でもなんでもなく、本当に何もなかった。
本棟も、納屋も、その先に広がる領地の麦畑も。更に向こうに見えていた街も、山間にポツポツ見えていた村も。なんなら、そこに生えている草も。
異世界転生でここに来たのに、更に別の世界に屋敷ごと来てしまったのだろうか。そうとも思ったが、わずかに残った土地の起伏や池の跡などに見覚えがあった。別世界に来たのではなく、世界が消えたかのようだった。
きっとサシャが引きこもっていた間に何かあったのだろう。そして、皆彼女を置いて逃げたのだ。
そして再び窓を閉ざした。何も考えたくなかった。
とりあえず、食料事情を改善しよう。
サンルームの根菜だけでは心もとない。庭、いや、見える範囲に食物を植えよう。そう決めて、イモーラム達芋ゴーレムを外に解き放って開墾を進めさせた。
誰とも会ってなかった。でも誰も外にいないというのはまた違っていた。少し寂しく感じたので、イモーラムたちだけではなく各種魔法人形達を屋敷の外に行かせて、擬似的な村を作らせた。
これで、屋敷から見る外の景色も素敵になった。
部屋から出ずとも、素敵な屋敷になっていく。
ここは私の引きこもり天国。
研究だけは続けよう。お母様との約束だ。
「あなたはここで生きていきなさい」
お母様はそう言った。
だから、私はこの部屋で生きていていいの。
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