第12話 オデット ― リュカの栄誉
婚約後、リュカは長期休暇だけでなく、ちょっとした休みがある度に帰省してくれるようになった。
でも、リュカと二人きりで過ごせるロマンチックな時間は全く存在しない。
剣術の稽古の相手をしてもらったり、勉強を教えてもらったりすることが主で、恋人らしい時間は皆無だ。
それでも、一緒に同じ時間を過ごせることはとても嬉しい。
フランソワは何度もリュカに剣技で勝負を挑んでは返り討ちにあっていた。
「これはこれで良い経験です」とサットン先生が訳知り顔で説明する。
一つ気になるのは、リュカが私と二人きりになるのを避けているように見えることだった。
他人行儀に振舞う時すらあって、私は少し不満に感じていた。
折角会えたのに・・・。
私は思い切って、一人で離れにあるリュカの部屋を訪れた。
ドアを叩くとリュカが顔を出して、私が一人で立っていると分かると顔を真っ赤にして口をパクパクさせている。
「・・・オデット、なんで一人でこんなところに!?」
「だって、本邸だといつも周りに人がいて、二人きりになれなかったから・・・」
小さな声で言うと、リュカがゴクリと喉を鳴らした。
パッと顔を上げると、リュカの熱の籠った眼差しがピタリと私に照準を合わせている。
その目が酷く飢えているように見えて、私は少し怖く感じてしまった。
その気持ちを察したのだろう。リュカは慌てて
「ごめん・・やっぱり俺の部屋に来るのはまずい。公爵に知られたら殺される」
と言いつつ、私を本邸まで送ってくれる。
私はもっと二人で居たいからわざとゆっくり歩いた。
リュカも私に合わせてかノロノロと歩いてくれる。
「・・あのさ、オデットが魔法学院に行くようになったら・・・きっともっと多くの男性に出会うと思うんだ」
・・・いきなり何の話?
突然の話の意味が分からず戸惑っていると、リュカは苦笑して私の頭をグリグリ撫でた。
「オデットはモテるから、学院に通うようになって俺以外の男に奪われちゃったらどうしようって不安なんだ」
「それはこっちの台詞だよ。エレーヌの手紙にもリュカが学院一のモテ男だって書いてあったよ。私みたいな子供じゃなくて大人の女の人をリュカが好きになっちゃったらどうしようって心配だよ!」
そういうと、リュカはものすごく幸せそうに破顔した。
「嬉しいな。オデットがやきもち焼いてくれるなんて!」
と私の手を握って、私の指にはめられた指輪を確認する。
「俺の指輪、ずっとしてくれてるんだな?」
「うん。最近ちょっときつくなってきたんで、もしかしたらネックレスにして首につけるようにするかもしれないけど・・」
「卒業したらもっとちゃんとした指輪を贈るから・・・」
「え、いいよ。私はこの指輪が好きだし・・」
「いや、贈りたいんだ。だから、学院に行っても常に俺の指輪をつけていてくれないか?他の男にオデットは俺のものだって見せつけたいんだ」
そういってリュカは切なそうに私の手をギュッと握った。
「俺は異常に嫉妬深くて独占欲が強いみたいだ。こんな俺で本当にいいのかい?」
リュカの真剣な眼差しに気圧される。
彼の手が少し震えていることに気がついて、これは真面目に答えなくちゃいけない問題だと脳みそを振り絞って考えた。
「・・私は多くの男性を知りません。世間知らずな箱入り娘だという自覚もあります。それでも、私はリュカと一緒に過ごす時間が好きです。リュカと同じ空間で『神龍の贈り物』を読みながら感じた心地良さは他の人では感じないと思う。だから、私はリュカがいいです」
それを聞いたリュカは
「・・・オデット。君を思いっきり抱きしめたい・・・が、それは指一本触れたことになるのか・・・?」
と小さな声でブツブツ独り言を呟く。
「私もリュカに抱きしめて欲しい!」
と言うと、我慢の糸が切れたみたいに、リュカは私を掻き抱いた。
リュカの腕の力強さに息が詰まりそうになるが、絶対的な安心感も与えてくれる。
私の首筋に顔を埋めながら
「愛している。オデット。君は俺の全てだ・・・どうか、どうか、俺だけを見ていてくれ」
と切実な声で囁いた。
リュカは相変わらずあらゆる試験でトップを維持し、魔法でも剣技でも他の追随を許さないぶっちぎりで卒業することになりそうだ、とお父さまが満足気に言った。
「最後の剣術トーナメントには家族で観に行こうか?」というお父さまの言葉を聞いて
「え!いいの?!」
と思わず立ち上がる。
「国王陛下がリュカの評判を聞いたらしくてね。是非彼の活躍を観てみたいと。最後のトーナメントは天覧試合になるそうだ。他の貴族たちも観に行くと言うし、私達もリュカの雄姿が見たいからね」
「天覧試合・・・」
「陛下からリュカが卒業したら王宮で働いて欲しいとの言葉を賜った。宰相の下について仕事を覚えて欲しいと仰られた。未来の宰相候補だ。我が公爵家としても名誉なことだよ」
リュカの努力が認められて、誇らしくて胸が一杯になる。
「リュカの前途は有望だよ。お前との婚約を早目に決めて良かったと思っている。リュカに縁談の申し込みがひっきりなしに来ていてね。婚約者がいるからと断り続けているんだ」
・・・リュカと他の女の人との縁談なんて考えただけで胸が苦しくなる。
その想いが顔に出ていたのだろう。
「リュカはお前以外の女性には目もくれないから大丈夫だ」
とお父さまは苦笑して私の頭をグリグリ撫でた。
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