麗しき男装勇者のかくしごと
蛙田アメコ
白き聖女アルルの告解①
勇者、クリス・ハルバード。
魔導師、ドルチェ・ノイマン。
戦士、ガルシア・ファランドール。
盾役、ソウエモン・カドクラ。
聖女、アルル・フランソワーズ。
──魔王滅却を成功させた英雄である。
王都は沸き立っていた。
魔王滅却を成し遂げた彼らがついに再集結し、新国王に拝謁する。
王都の中央教会をあずかる現役の聖職者で、「白き聖女」と賞されるアルル・フランソワーズはかつての仲間をむかえるにあたって胸を高鳴らせていた。
「……皆様、無事に到着されるといいのですが」
聖女だなんてまったくもって馬鹿げた呼び名だと、アルル本人は思っている。
が、民の心は汲んでおかなくてはならない。
まとった僧衣は特別製。たっぷりとあしらわれた純白のフリルに彩られた華奢な体に、腰まで伸びた波打つ金髪が流れている。「聖女」の名にふさわしい可憐な姿である。過酷な旅を終えた身とは思えない麗しい僧侶は、教会の窓辺に腰をかけた。
かつての仲間たちは、滅多に人前に出ない。
アルルも公務以外は「祈り」を理由にして自室に引きこもっている。
懐かしい冒険の日々を思い出しながら、ぼんやりと窓外を眺める。
どぅっと地鳴りのような響めきに、アルルは我に返る。
どうやら勇者様が、王都にやってきたらしい。
***
「久しぶりだね。アルル!」
教会にやってきた勇者クリス・ハルバードがにこりと微笑んで、右手を挙げる。
少年のような小さな体躯に白銀の甲冑に純白のマントを靡かせている。
そのひとつひとつが、銘品と謳われる逸品。
クリスが「神速」の剣技を持っているからこそできる純白の装備である──要するに、勇者は返り血を浴びない。それほどに、速く、疾いのだ。
クリスのことを貴公子とか呼ぶ者もいるが、実態は「鬼」公子だ。
あの戦いぶりは、人のそれを越えている……と、アルルはかつての姿を思い出すたびに思うのだ。
「おひさしぶりです。勇者様」
ゆっくりと礼をしたアルルに、クリスが目を細める。
輝くばかりに、顔がいい。
「ふふ、今日も可愛らしいね」
「いえ、そんな……」
「さすがは我々の可憐担当!」
「う、勇者様だって……うるわしいです」
「ありがとう──もしかして、誘ってる?」
顔面が燃えるように熱くなるのを自覚して、アルルは頬に手を当てた。
「冗談はやめてください」
「本気だよ。今すぐに連れ出しちゃいたいくらい」
「勇者様は相変わらずですね」
「ねえ、アルル。だめかな?」
「だめにきまってます」
「……アルルも相変わらず。僕に靡かない女の子がいるなんてな」
クリス・ハルバードは自分の顔の良さをわかっている。
自分がもっとも麗しく映える姿を知っている。
そして、はっちゃめちゃに好色である。
英雄色を好む、というやつだ。
可愛い女に目がない。
そして──、
「……男装の麗人なんて、良いように言い過ぎです」
好色ドスケベ女勇者、とか。
もっといい呼び方があるだろう。
アルルは常々、そう思っている。
男装の勇者クリス・ハルバードと、その麗人の率いる英雄たち。
アルル・フランソワーズは知っていた。
……彼らはたぶん、世間で思われているような人たちではない。
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