秘密のある者を変える光線と秘密のない漢

三国洋田

第1話 秘密がないとは……

「太陽が縦に三つ並んだような着ぐるみだな」


 朝起きたら、両親がそんな格好をしていた。


 なんだあれは?


 ちょっと聞いてみるか。


「父さん、母さん、おはよう」


「「…………………………」」


「変わった格好だな。今日は何かあるのか?」


「「…………………………」」


「どうしたんだ? なんで何も言わないんだ?」


「「…………………………」」


 父さんと母さんは、どうしてしまったんだ?



「へんたい…… へんたいぞう……」


 ん?

 なんだ?


「へんたいぞう…… へんたいぞう……」


 誰かが呼んでる?


「聞こえているでやんすか、へん 鯛象たいぞう!?」


「なんだ!? 誰だ!!」


 周囲を見回してみた。


 いつも通りのリビングだ。

 父さんと母さん以外は、誰もいない。


 あの声はなんだったんだ!?


 もしかして、スマホが壊れたのか?


 いや、スマホはいつも通りだな。


「聞こえているみたいでやんすね、へん 鯛象たいぞう!!」


「なんだ、この声は!? 誰がしゃべっているんだ!?」


「私は神でやんす!!」


「カミ!? トイレットペーパーがしゃべっているだと!?」


「その紙じゃないでやんす!!」


「なら、ティッシュか!?」


「だから、その紙じゃないでやんす!!」


「なら、そこに落ちてる抜け毛がしゃべっているのか!?」


「その髪でもないでやんす! 人知を超えている存在の神でやんす!!」


「な、なんだって!? そんなのいたのか!?」


「いるでやんす! 私がそれでやんす!!」


「そうだったのかっ!!!」


 世の中は不思議がいっぱいだぜっ!!!!!



「それで、その神ちゃんが、どうして俺のところに来たんだ? 何か用か?」


「神ちゃんって、馴れ馴れしいでやんすね! まあ、いいでやんす! 当然、用があって来たでやんす!!」


「それはなんだ?」


「いま地球は大ピンチでやんすよ!!」


「な、なんだって!? どういうことなんだ!?」


「宇宙人が攻めて来たでやんす!!」


「神の次は宇宙人だとっ!? 世の中の不思議が勢ぞろいだなっ!!」


「そんなことを言っている場合ではないでやんす!!」


「それもそうだな! それで、どうすればいいんだ!? 避難すればいいのか!?」


「違うでやんす! 戦うでやんす!!」


「ああ、確かにそうだな! よし、行くぜ!!」


「まったくためらわないでやんすね……」


「どうした、神ちゃん? 何か言ったか?」


「なんでもないでやんすよ!」


「そうか? じゃあ、行くぜ!!」



 玄関にやって来た。


 そして、靴を履こうとした。


「待つでやんす! 靴を履いちゃダメでやんす!!」


「なんでだ、神ちゃん? 靴を履かなかったら、足の裏が痛いだろ?」


「いま宇宙から『秘密がある者をヒミッツに作り変える光線』が照射されているでやんす!」


「なんだその変なのは!?」


「名前通りのものでやんす! ヒミッツというのは、宇宙人の命令に絶対に従ってしまう奴隷のような存在でやんす!!」


「なんだって!? そんなものが!?」


「ちなみに、鯛象たいぞうの両親は、もうすでにヒミッツになっているでやんす!」


「なんだと!? あれがヒミッツなのか!? なるほど、だからあの姿なのか!!」


「どういうことでやんすか?」


「秘密のあるヤツを、ヒミッツという太陽が三つ並んだ着ぐるみ姿にする! これは『秘密ひみつ』のあるヤツを『日三ひみっつ』にするという高度なダジャレになるわけだ!! なかなかやるようだな、宇宙人!!」


「何を言っているでやんす!? そんなわけないでやんしょ!! ただの偶然でやんすよ!!」



「ところで、その光線があると、なんで靴を履いちゃいけないんだ?」


「足が秘密になってしまうからでやんす! 同じ理由で服も着れないでやんす!!」


「な、なんだって!? うーむ、それは困ったな。靴を履けないのでは、外に行けないぞ。家の中から宇宙人を倒す方法はないのか?」


「そこは問題ないでやんす!」


「どうしてだ、神ちゃん? 裸足では、石を踏んだら痛いぞ? ガラスが刺さるかもしれないぞ?」


「この光線は秘密のない者が浴びると、強くなるでやんす! いまの鯛象たいぞうは、石やガラスを踏んでも、まったく痛くないでやんす!」


「そうだったのか! なら、なんの問題もないな! 出発だ!!」


「……全裸なのは問題じゃないのでやんす?」


「えっ? どうした、神ちゃん? 何か言ったか?」


「なんでもないでやんす! さあ、行くでやんす!!」



 家を出て、走った。


「おおっ、いつもより早く走れるぞ! それに、足も痛くない! これが強くなるということか!! すごいじゃないか!!!」


鯛象たいぞう、どこに行くのでやんすか!?」


「何言ってんだ、神ちゃん!? 宇宙人のところに決まってんだろ!」


「どこにいるか知っているのでやんすか!?」


「いや、知らん!」


「なら、どこに向かっているのでやんすか!?」


「宇宙人がいそうな気がする方向だ!!」


「……宇宙人は鯛象たいぞうの家の近くにある公園にいるでやんす」


「分かったぜ!!」



「神ちゃん、あのいかにもUFOっぽいものか!?」


「そうでやんす!」


「よし! いくぜっ!!! うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!! くらいやがれっ!!!!!」


 UFOっぽいものを蹴り上げた。


 UFOっぽいものは天高く飛んで行き、爆発した。



「おおっ!! すげぇっ!! よく飛んだなぁ!!」


「そうでやんすね……」


「これで倒したんだよな? 父さんと母さんは、元に戻ったのか?」


「まだでやんす! まだ光線を出しているヤツがいるでやんす!!」


「そうなのか! なら、そいつもぶっ壊しに行くぜ! 神ちゃん、場所を教えてくれ!!」


「分かったでやんす!」


「俺たちの戦いはこれからだ!!!」


「いきなり何を言っているのでやんすか!?」


「なんとなく言いたかっただけだ! 気にすんな!!」


「はぁ、そうでやんすか……」

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