星よりも遠い場所

華川とうふ

スターよりも遠い場所

 私には秘密がある。

 それは、幼馴染の柊陽が好きだということ。

 柊陽の子供のころから可愛くて大好きだった。

 大きな瞳に白い肌に艶やかな黒髪はまるで白雪姫みたいで、どんなアニメキャラクターや人形よりも可愛くて私の一番のお気に入りだった。

 小さなころから、私は柊陽の髪を梳かすのがお気に入りだった。

 さらさらとしてしっとりとしたその手触りは、ぬいぐるみも敵わないくらい心地がよい。


 柊陽は男の子だけれど、私にとってはどんな女の子よりも可愛い憧れのプリンセスだった。


 中学に入ってから柊陽は髪を伸ばし始めた。

 それを見た周囲は「やっぱり!」といって納得した。

 男子は本当は髪を短く切りそろえなければいけないけれど、柊陽は肩につくくらいの長さになったときに、女子と同じように髪をまとめるように指導されただけだった。

 学ランにポニーテール。

 文化祭とかならたまに女子が男装と称してやる格好だけれど、柊陽にとってはそれが日常だ。


 習い事だって子供のころから、歌にバレエに英会話、あとピアノ。

 お嬢様っぽい習い事が似合っていた。


 髪を伸ばし始めたころ、柊陽は一番好きだったピアノを辞めた。

 その代わり歌とバレエにより力を入れるようになった。

 私も小さい頃から一緒にやっていたので、練習に付き合った。

 努力して目標にまっすぐ突き進む柊陽はとってもかっこよかった。

 カッコいいなんて言ったら、柊陽本人は「いやだなあ」なんて苦笑いするかもしれないけれど。


 私はそんな柊陽にずっと恋をしている。

 だれにも言ったことはない。

 これから先も言うつもりはない。

 あ、でもいつかおばあさんになったらいうかも……。


 柊陽には恋をしちゃいけない。

 柊陽はとある学校の受験を控えているから。

 それは男子だけが入学することを許された学校。

 演劇に歌やダンス、それだけでなく作法など舞台に立つものとして必要なものをみにつけられる特別な学校。

 卒業後はそのまま青華歌劇団への入団が約束された学校。


 青華歌劇団は特殊な劇団だ。

 青華音楽学校を卒業した男子のみが入団を許される。

 それ以外で青華歌劇団の舞台に立つ方法はない。

 入団すれば、スターと呼ばれ歌に演技にマルチに活躍することができる。

 青華歌劇団の舞台に立つのが柊陽の夢だと知ったときから、私は彼への恋心を封印することに決めたのだ。

 青華歌劇団の規則ではアイドルみたいに恋愛禁止とはなっていないが、結婚する人間はやめるというのが習わしだ。


 本当は消し去ってしまいたかった。

 だけど、友情とかそんな言葉でごまかそうとしても消えることはなかった。

 だから、こっそり隠し続けることにしたのだ。

 一生の秘密。


 そう心に決めてた。


 柊陽が青華歌劇団に入るのを応援する。

 柊陽がスターになるのを応援する。


 青華歌劇団のスターは本当に素敵だった。

 女性の役も男性が演じる。女性だけの劇団とは違って、男女の役を両方演じることができるのも素敵なところだ。


 私は柊陽を心から応援していた。

 なのに……柊陽が青華音楽学校への合格を教えてくれた時涙が止まらなかった。


「なんで、一人にしないで。ずっと……」


「好きだったのに」という言葉を飲み込む。


「ずっと、一緒だったのに」


 代わりの言葉を選んだけれど、それは自分のなかで苦い違和感となってひっかかり、余計に苦しくなった。


「わかってる。俺さ、ずっとお前のこと好きだったんだ……」


 柊陽は馬鹿だ。こんなときに告白してくるなんて。

 また秘密が一つ増えてしまう。

 私が柊陽のことを好きなのが一つ目の秘密。

 柊陽が私のことを好きなのが二つ目の秘密。


 本当は嬉しいはずなのに、どうしてこんなに苦しいのだろう。


「離れたくない……」


 本音だった。

「私も柊陽が好き」という言葉の代わりに、私に許されたのはそれだけだった。


「じゃあ、まつからお前も受験しろよ。一緒に青華音楽学校に入学しよう」

「えっ?」


 青華歌劇団は男性だけの劇団だ。

 一応、生まれながらに性別も自任も女の私には入れるわけがない。

 私がきょとんとしていると、柊陽は澄ました顔で言った。


「入学願書見てみろ。青華音楽学校への入学資格に男性であることなんてどこにもかいてないんだ。だからお前も受けろ。大丈夫、女はだめなんて書いてないし、願書にも性別の欄はない」


 それは女性が門をたたかないことを前提にしているからでは?

 という私のツッコミを無視する柊陽。


 翌年、私が青華音楽学校入学することになり、女性であることを隠しながら、学園生活を送ることになるのはまた別の話である。

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