こっくりキャプチャー・プラン 6

「だいたい、『こっくりさん』が『こっくりさん』を名乗るわけないだろ」

 五十嵐さんは「やっぱ効果なかったな」と言って眉を手の甲でこすりながら、そんなことを言った。

「え、そうなんですか?確かに、自分で『さん』つけるのってちょっとおかしいかなとは思ってたんですけど」

「違う。んだ。名前ってのは霊的にものすごく強い意味を持つ。名前を知られると呪われる、みたいなの聞いたことないか?あとは、子供にわざと汚い名前をつけて悪いものを遠ざける風習とか」

 私は、昔読んでた『デス・ノート』のことを思い出したけど、きっとそれとは違うと思う。

「でも、『こっくりさん』って偽名なんじゃ?」

「偽名だとしても、名乗ってしまったら本名とある程度同じ意味を持つんだよ。だから、『こっくりさん』と名乗ること自体、自分から弱点を一つ晒すようなもんなんだ」

 『こっくりさん』と名乗った何かは、私たちを品定めするように、にやついた顔をしている。

「ええ?ど、どういうこと?未来は『こっくりさん』をやってとりつかれたんじゃ……」

「ワシが何者か、などどうでもよい。問題は貴様らがワシに何を聞き、ワシがどう答えるか、じゃ」

「なるほど。『問われ、答える』のフォーマットに『怪談』を落とし込むことが名乗りの目的か」

「くふ、聡い。打てば響く坊主だ。だが、気をつけよ。これはあくまで、ワシと姉の『げえむ』じゃ。お前たちにできるのは、せいぜい手助けが関の山よ」

 そこまで聞けば、私にだって違和感の理由がわかった。納得がいった。

 わざと質問と回答に幅をもたせた、曖昧なルールも。6文字の言葉、という中途半端な定義も。綾瀬の的はずれな質問を受けて、一気にゲームを終わらせなかったことも。

 『こっくりさん』は、このゲームに端から勝とうと思っていない。ゲームをやること自体が目的で、なんなら負けることが、のが目的なのだ。

 問題は、その言葉がいったいなんなのか、だけど。


――名前ってのは霊的にものすごく強い意味を持つ

――ワシをその名で呼ぶでない


 やたらと綾瀬に当たりの強い『こっくりさん』の様子を見て、私はなんとなく、彼女の意図がわかった気がした。

「娘、お前の番じゃ」

 綾瀬は、たぶん気がついてない。私は少し迷ってから、意を決して質問をした。


「こっくりさん、こっくりさん」

 コインに置いた指に力がこもる。

「『未来ちゃんに、何があったの?』」

「えっ?!」

 困惑する綾瀬をよそに、コインは盤上を滑るように動き、答えを示す。


「い」。「し」。「め」。


「……『いじめ』?」

 私の言葉に、『こっくりさん』は頷いて、静かに告げた。

「『い』は罠じゃ。これで、『リーチ』じゃな」


あ×うえお

か◯◯◯こ 

さ◯す◯そ 

た◯つ◯◯ 

な◯ぬ◯◯

は◯ふ◯◯ 

◯◯◯×◯

◯ ゆ ◯ 

◯◯◯◯◯

◯   を

×


『罠』

い・め・ん(残り3文字)


『罠』以外

き・く・け・し・せ・ち・て・と・に・ね・の・ひ・へ・ほ・ま・み・む・も・や・よ・ら・り・る・れ・ろ・わ


「『いじめ』って……!?」

 綾瀬はものすごく驚いているみたいだった。

「そ、そんなこと未来は一度も」

「いいや。こいつは学校でいじめられていた。それを家では話さないようにしていただけじゃ」

 『こっくりさん』は険しい目つきで言う。相談されたときに私に言わなかったということは、綾瀬は本当に知らなかったんだろう。

「貴様は知るまいよ、姉。それが貴様の、貴様の罪なのじゃ」

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