こっくりキャプチャー・プラン 4

◆50音表◆


あいうえお 

かきくけこ 

さしすせそ 

たちつてと 

なにぬねの

はひふへほ 

まみむめも

や ゆ よ 

らりるれろ

わ   を


(作者注:便宜上縦に長い50音表を掲載していますが、登場人物がプレイしているのは通常の『こっくりさん』などで使われる、通常の50音表です。なお、文字の配置は上のものを90度回転させたものです)


「では、娘。お前から始めろ。なんでも聞いてよいぞ」

 にまにまと笑いながら、『こっくりさん』が告げる。ゲームが始まった。大の大人3人と、女子高生(?)がコインに指をおいている姿は、ちょっとおかしい感じがしたが、かかっているものを考えると笑ってもいられない。負けたら、綾瀬の生き胆が食われるというのだ。

「おっと、相談するのは禁止じゃ。そんなことしたら面白くないじゃろ。何を聞けばいいかは、それぞれが自分で考える必要がある。ま、ワシが相談と判断しない程度であれば話してよいがのう」

 私は少し考える。どうやって質問するのが正解だろう?

 さっき五十嵐さんは、「『罠』に4つかかるまでにどれだけ『罠』以外の文字を潰せるか」が大事だって言ってた。だったら、あまり答えが長くなるのもよくない。一発で4文字の『罠』にひっかかってしまったら、勝ち目は0になってしまう。

 答えが1文字になる質問をして、お茶を濁す?

「あー、娘。まさか『答えを1文字にしてお茶を濁そう』などと考えてはおらんよなあ?」

 『こっくりさん』がつまんなそうに言った。

「そんなつまらんこと、するでないぞ。まあ、ルール上ワシも許可してはいるが……そんなつまらんやつには、いらん意地悪してしまうかもだからのう。例えば、『蚊』が答えの質問に『もすきいと』などと答える、とか」

「うわ、そういうのいいんだ」

「いいも何も、ワシが親で、ルールじゃからな。『何を答えてほしいのか』よーく考えてから聞くのだぞ?」

 なるほど。答えはできるだけ1つに絞れたほうがいい。そういうことか。複数の答えが許される質問だと、予期しない多くの文字数で回答されてしまうかもしれない。

「じゃあ……」

 ひとまず今後のために、やっておかなければいけない質問がある。

「こっくりさん、こっくりさん。『数字の1を英語で言うと何?』」

 私の質問に、『こっくりさん』は少し驚いた様子だったが。私の意図を察すると口の端をゆがめた。

「『わん』じゃなぁ、それは」

 コインが動く。誰が動かしているのかといえば、もちろん回答者である『こっくりさん』なのだが、全員の指が乗っているコインはひとりでに動いているようにも感じられた。「わ」の隣にある「ん」へと、すうっとコインが移動した。

「がちゃあん!」

 『こっくりさん』が大きな声をあげ、私と綾瀬は驚く。

「『ん』は『罠』じゃ!残念じゃったのう」

「え、ええ!?もう1文字踏んじゃったの?!」

 綾瀬の声が上ずっている。でも、

「だが、ま、半ば計画通りってところか?娘、お前もなかなか食えないやつ……食うのは姉のほうじゃけどのう」

「ええ?そうなの?」

 聞き返す綾瀬に、私にかわって五十嵐さんが答えた。

「『ん』はこの五十音表だと、表の端、『わ』の隣……一番アクセスしづらい場所にある。何か他の回答で『ん』を経由することになった場合、かなり長い経路をたどらなきゃいけねえから、何かのついでには確認できねえ。『あ』の次が『ん』だったりしたら、あ行を片っ端から踏む羽目になるからな。だから、最初に確認すんなら『わ』→『ん』が正解だ」


あいうえお 

かきくけこ 

さしすせそ 

たちつてと 

なにぬねの

はひふへほ 

まみむめも

や ゆ よ 

らりるれろ

◯   を

×


『罠』

ん(残り5文字)


『罠』以外


 よかった。そんなに間違ってなかったみたいだ。しかし、公開できる4文字の『罠』のうち1文字をあけてしまったことが、後々響いてこないか、少し心配だ。

「とりあえず、【指摘】じゃ。当てずっぽうでもなんでも言ってみい」

「うーん、同じ文字がかぶらなくて、6文字で、『ん』が入る」

 私は適当に『あんどろめだ』と言って、不正解だった。まあそうだろう。


「では次は姉、お前だ」

「え、えっと……」

 綾瀬はやっぱり迷っている。それも仕方ないかもしれない。私は(だいたいのことであれば暴力で解決できるし)『きさらぎ駅』での経験があるけど、彼女にとっては初めてのデスゲームなのだ。会話はあまり良くないようなので、私は目線で励ますぐらいしかできない。

「あんまり文字が多くなくて……そうだ!こっくりさん、こっくりさん。『好きな食べ物は何?』」

「ハァ?」

 気の抜けた質問に、私が心の中で出さなかった声を、『こっくりさん』が大声を発した。

「み、未来なら『寿司』って答えるはず!未来、お寿司が大好きだったもん」

 綾瀬の言葉を受けて、彼女は妹の姿で大きなため息をつく。

「……コイツの記憶にいるのとかわらず、お前はグズで頭の悪い姉だな。は『とりにく』じゃ!」

「あ、ああっ!」

 綾瀬の質問は明確に悪手だった。『とりにく』の4文字程度で済んだのはまだマシだったかもしれない。どんな答えでもできる質問なんて……。

 そんなことを考えている私の指をのせて、コインは表の上を動いていく。『と』から『ろ』まで一直線に動き、ら段を『り』まで突っ切って、そこから『に』を経由して『き』で折れ曲がり……ざっくりいって、表の真ん中のあたりをぐるっと廻るように動いた。


あいうえお

か◯◯けこ 

さ◯すせそ 

た◯つて◯ 

な◯ぬね◯

は◯ふへ◯ 

ま◯むめ◯

や ゆ ◯ 

ら◯◯◯◯

◯   を

×


 『こっくりさん』からは、呆れたようなため息以外の反応はない。どうやら幸運にも、『罠』を踏まずにすんだようだ。


『罠』

ん(残り5文字)


『罠』以外

き・く・し・ち・と・に・の・ひ・ほ・み・も・よ・り・る・れ・ろ・わ


(あれ、さっき何か、違和感があったような……)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る