魔王の呪いを解いたら相棒に!? ～日本でレベル１からやり直します～

第156話 往生際の悪い奴

「死ねえええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

　自分の目論見が外れたことを知ったレッドキャップが再びキレて闇雲に襲いかかってきた。

　だが、奴の身長を優に超える十字架がその行動を阻害する。

　弱点である十字架はダメージを受けやすくなるだけでなく全能力を低下させるのだ。

　レッドキャップとしては全力で飛びかかってきたつもりだろう。

　が、結果は残酷なまでに正直である。

　踏み込む速度は著しく低下し斧を振りかぶる動きにも切れがない。

　弱体化したのは一目瞭然。

　それでいて当人は気付いていないのだ。

　いや、気付いてはいるのかもしれないが、それでも攻撃の手を止めようとはしなかった。

　躊躇う素振りすらないのは頭に血が上っているからか。

　あるいは再び俺を騙そうと画策しているのか。

　いずれにせよ十字架を盾がわりに受け止めたレッドキャップの一撃は今までの猛攻から想像していたようなものではなかった。

　十字架はザラタンの骨でできているため先程までの勢いで攻撃されても傷のひとつもつきはしなかったとは思うが、一撃の重さにノックバックくらいはさせられたはずだ。

　今はそれがない。

　当たったことはわかるが楽に押し返せると感じられるほど軽い。

「死ね死ね死ね死ねえ死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねえ死ね死ね死ね死ねっ！」

　それでもレッドキャップは発狂したのかと思うほど滅多矢鱈に斧を振り回し遅い連撃を続ける。

　殺気と気迫だけは先程よりも上かもしれないと思わせられたせいで、しばし受け続けるだけになってしまったけどね。

　すぐに我に返ったけど相手にのまれるとは情けない話だ。

　ここまで攻撃一辺倒になってくれるなら、こちらとしてもやりやすい。

　ヌルい連撃を受けながら魔法を使えばいいだけだ。

　選択した魔法は解呪。

　邪妖精は存在そのものが呪いのようなものだからだ。

　それと奴が俺にまとわりつかせたものを返却する必要がある。

「死ぃ──────────」

　レッドキャップの攻撃の手が止まった。

　十字架に斧を打ち付けた状態で固まっている。

　殺意に満ちた形相で鼻息を荒くして睨み付けてくるが、それだけだ。

　あれほど死ね死ねと繰り返していたのに何も言えずにいるどころか脂汗を流して必死に耐えているような有様だった。

　解呪が効いている証拠だ。

「残念だったな。言葉に呪詛を織り交ぜていたのは気付いていたよ」

　驚愕に目を見開きシワだらけの顔を憎悪に歪めるレッドキャップ。

　呪詛が何の効果もなかったと今頃になって気付いたか。

「お前に魔法への耐性があるように、俺も状態異常をはね除けることができるんだよ」

　それを聞いたレッドキャップは俺を射殺そうとするかのように怒りの視線を向けてきた。

「解呪の魔法で反転された自分の呪いはキツそうだな」

　ギリギリと歯噛みするレッドキャップが口の端から血を流していた。

　耐えるためか憎悪を増したからか、あるいはその両方か。

　憎しみを募らせるほどに呪詛へと転換されるが解呪はそれを反転させて返してしまう。

　十字架によって半減したものの魔法耐性が残っているために耐えることができているようだ。

　でなければ解呪を使ってすぐに奴は消滅していたはず。

　いつまでも耐えていられるようなものではないと理解しているはずだがレッドキャップは殺意のこもった視線を向けてくるのをやめようとしない。

　呪詛を反転させられているとわかっていても憎悪し続ける。

　返されたものを再び呪詛に塗り替えて叩きつけてやると言わんばかりだ。

　もしレッドキャップの魔法制御能力が激減していなければ、そうなったかもしれない。

　少なくとも解呪の術式に干渉してきたことだろう。

　生憎と今の奴にそこまでの余裕はない。

　ひたすら耐えるだけで存在が削られていくだけだ。

　それでも決して屈することがない。

　たとえ消えても呪い続けてやるという執念を感じる。

　勇者になる前の俺であったなら気押されるどころか恐怖させられていたに違いない。

　今の俺でも何かもう一手ほしいと思うくらいだからね。

　このまま解呪を使い続けて押し切ればいいはずなのに。

　やはり、今もまだ気押されている？

　あるかもしれない。

　気迫負けしているところはあるのだろう。

　こういう時に焦って余計なことをしようとすると、ひっくり返されたりするものだ。

　油断は禁物だが焦る必要はない。

　レッドキャップの変化を見逃さず今のままで押し切るのみ。

『涼ちゃん、大変だよ！』

　突如として真利から念話で連絡が入った。

『何事だ？　いま取り込み中なんだが』

『館が崩壊し始めてるんだよー』

『何だって!?　堂島氏は発見したのか？』

　返答しだいではミケを助っ人に向かわせる必要があるかもしれない。

『うん、すぐに見つけたよ見つけたんだけど問題があって』

　救出には至っていないということか。

『結界で何重にも囲われてて助け出すのに手間取ってたら──』

『館が崩れ始めたんだな』

『そうだよ』

『スマンな。それ、たぶん俺のせいだ』

『えーっ、どういうことぉ!?』

『敵を消滅させにかかってる最中と言えばわかるか』

『邪妖精と館が一体化してるってこと？』

『有り体に言えばそうだ』

　レッドキャップは自分の存在が消えないように館の方へ呪い返しを流しているみたいだな。

　つまり、奴が消えるより先に館が崩壊する。

　往生際の悪い奴だ。

　何かしらやらかしてくると思っていたが想像以上に面倒な真似をしてくれる。

　このままだと館だけでなく風の揺りかごさえ崩壊させようとするだろう。

　俺たちを道連れに自爆するくらいは平気でするに違いない。

『だが、手を緩められるような状態じゃない。油断すると何をしでかすかわからん奴だ』

『わかった。なんとか頑張ってみるよ』

『ミケを助っ人に向かわせる』

『問題ない。いま結界をすべて解除した』

　サポートに回っていた真利ではなく英花から連絡が入った。

『今から脱出する。そっちは大丈夫か』

『根比べの真っ最中だよ。しぶといったら』

『そんなにヤバい敵なのか』

『レッドキャップを知ってるか』

『……よりにもよって赤帽子の妖精か。わかった。応援に向かう』

『いや、ここから脱出する準備を進めてくれ』

『なに？　いいのか？』

『コイツ、たぶん俺たちを道連れに自爆するつもりだ』

　だからこそ解呪の手を緩められない。

　緩めれば、すぐにでも自爆しようとするだろう。

　というより今も自爆しようとしている。

『おい、大丈夫なのか』

『問題ないとは言えないな。このままレッドキャップを倒すと空間の維持をいつまでしていられるか』

『なるほど。脱出の準備を進めておいた方が良さそうだな』

『じゃあ、私はうちの車を取りに行ってくるね』

『やめておけ、真利。いつレッドキャップが倒されるかわからんのだぞ。バラバラに行動するのはリスクが大きすぎる』

『そっか、そうだよね。じゃあ新しいのを買わないといけないかな』

　このタイミングでその心配をするのかと思ったが、これこそ真利クオリティだからしょうがない。

『今、外に出た。堂島の車に乗り込んでエンジンをかけておく』

『了解した。また後で』

『ああ』

　英花の返事を聞いたところで館が崩壊した。

　それに合わせてレッドキャップが醜悪な笑みを浮かべる。

　ここが崩壊すれば貴様も死ぬが良いのかという脅迫の意を込めた笑みだというのは一瞬でわかった。

　死にたくなければ解呪の魔法をやめろということなのだろう。

　最後の最後で嫌な切り札を切ってくるじゃないか。

　本当に往生際が悪い。