第2話 おっさん、生き返る
昔の俺はかなり凄い冒険者だった。
あちこちのダンジョンを踏破し、数々の手強いモンスターを倒してきた。
街に寄れば、俺の名声を聞きつけて女の子たちが寄ってきて、他の冒険者からは俺がしてきた冒険譚を聞かせてくれと頼まれた。
酒場に行けば中心にいるのはいつも俺で、みんなこぞって俺に話しかけにきてくれた。
幼馴染のセリアと付き合い始めたのもそんな時だった。
楽しかった。栄光の時代だった。
次第に名声はあらゆる所まで届き、ついに国から勇者パーティーの一人に選ばれた。
光栄だと思った。自分が魔王討伐の一員になれるなんて。
自分より若く強い勇者に畏敬の念を覚えつつ、これまでの経験を活かして頼れる仲間になろうと思った。
俺も勇者と共に魔王を倒す英雄になるんだ。
そして、恋人のセリアと結婚するんだと。
そう思っていた……。
でも、現実は違った。
魔王城に近づく度に強くなっていく魔物たちに俺はだんだん歯が立たなくなってきていた。
俺の剣術や中級魔法も徐々に通じなくなってきていた。
それだけじゃない、歳をとって昔のように体は動かなくなってきていた。
もうあの頃のような機敏な動きはできない。
強さの限界が見えてきていた。
勇者は俺の事を頼れる仲間だなんて思っていなかった。
むしろ、役立たずだと思っていた。
恋人のセリアは俺を見限った。
挙句の果てにミノタウロスの戦いに一人で敗れて、首をはねられて俺は死んだ。
嫌だ、このまま死にたくなんてない。
こんなところで死ぬなんてごめんだ。
俺は英雄になるはずだったんだ。
魔王を倒す英雄に。
ここが俺の限界だなんて認めたくない。
俺はもっとやれる。
もっと戦えるんだ!
声にならない叫びをあげ、流せない涙を流す。
俺はもう死んでいる。
この嘆きは誰にも届かないだろう。
そう思っていた。
だが、不意に声がどこからともなく聞こえてきた。
「強くなりたいか?」
ああ、強くなりたい。
勇者よりも俺は強くなりたい。
「どんな手を使っても?」
たとえ、この身が地獄に落ちようとも強くなりたい。
「強くなってなにがしたい」
現魔王を倒して、英雄になりたい。
俺が最強の魔法戦士だってことを世に知らしめたい。
「ほっほっほ、こやつモルシレンス様の眷属にふさわしいわい」
モルシレンス。どこかで聞いたことあるような。
「では、そなたの願いを叶えてしんぜよう」
一面、暗闇の世界だったのに白い霧が立ち込め始める。
やがて、俺の体は霧につつまれていく。
なんだこれ、一体なにが起こっているんだ?
俺はどうなるんだ?
パチパチとたき火の音がする。
目を開けるとそこには暗い闇に広がる星々がきらめいていた。
夜?
体を起こすと見知らぬ老人がいることに気付く。
三角帽子を被り、濃い緑の旅装束をきた老人が片手でひげをさすりながら、もう片方の手で木の枝をたき火の中に入れて火の調整をしていた。
誰だ、この人?
「あれ、俺は死んだはずじゃ」
「儂がそなたを生き返らせたのじゃ。魔法を使っての」
生き返らせた?
魔法で?
そんなことできるのか?
でも、実際俺は生き返っているし……。
「不思議そうな顔をしておるのう。まあ、無理もないか。儂の使う死霊魔法は珍しい魔法じゃからのう」
「助けてくれて感謝する。本当にありがとう」
「よいよい、儂とて善意だけで助けたわけじゃないからなぁ」
善意だけじゃない?
老人の言葉に引っかかりを感じつつも、大事なことに気付く。
「そういえば、ここにいたミノタウロスはどうしたんだ? さっきまで、ここにいたはずじゃ――」
「ミノタウロスならそこじゃよ」
老人が指さす先を見てみるとそこにはミノタウロスの死体が横たわっていた。
一体誰があのミノタウロスを倒したんだ。
「儂じゃよ」
「え?」
「あのミノタウロスにとどめを刺したのは」
「そんな、どうやって」
この老人があの筋骨隆々のミノタウロスを倒しただって。
俺ですらやられたっていうのに。
「言ったじゃろう。儂は死霊魔法が使えると。それで倒したんじゃ」
「あなたはいったい?」
今の今になって気付いた。
この老人、まとっている雰囲気が只者じゃない。
何者なんだ。
老人が三角帽子をゆっくりと取る。
そこには小さい鬼の角が生えていた。
オーガだ。人間じゃない、魔物だ。
俺は距離をとって、近くに置いてあった自分の剣を手に取り構える。
「見ての通り、儂は人間ではない。儂はある目的でお前さんを蘇らせた」
「あの声の正体はもしかしてお前か」
「さよう。儂はずっと探しておったんじゃ、お前さんのような強さに貪欲なものを」
「なぜ?」
「探しておるんじゃ、先代魔王の眷属となってくれるものを」
先代魔王の眷属だって。
先代魔王っていうとそうか、だからモルシレンスの名前が。
モルシレンス。
白い霧と共に現れる邪悪な不死鳥。不死の軍団を操り、バルバラ大陸を恐怖に陥れた魔王。
現魔王二ルドラによって退けられたが、再起の時を図って今もどこかに眠っているという。
「お前、もしかして……」
「そう。先代魔王モルシレンス様の眷属。レンフリー・ブラッドじゃ。儂がお前さんを勇者よりも強い魔法剣士にしてやろう」
「勇者よりも強くだって――」
「先代魔王が使っていた魔法の死霊魔法をお前さんが使えるようにしてやろう」
先代魔王が使っていた魔法が俺に使えるようになる。
俺は喉をゴクリと鳴らし、レンフリーの言葉の続きを待った。
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