第20話 枯れ木の迷宮
『短く、
という言葉に反応し、
そして、大地がざわめくような不気味な音を立てながら、
そして、現れたのは左右を枯れ木に挟まれた道……その道の先には、低い枯れ木が密集して作られた、巨大な迷路があった。
地の果てまで続く、枯れ木の迷宮。
彼らは、言葉を失った。
「……これが、短く、険しい道?」
チーグが首をひねった。
ともかく、前へ進むしかない。彼らは、行く道の長大さにげんなりしながらも、とりあえず迷宮の目前まで歩を進めた。
近づくと、迷宮の巨大さに圧倒される。
これを
「
ノタックは
動揺する仲間たちをしり目に、ひとりポーリンだけは、その偉大な魔法の技を眼前にして深い感銘を覚えていた。
「これほどの魔法……すごい」
「確かにすごいが、困ったことになったぞ」
チーグがうっとりするポーリンを現実に引き戻そうと苦言を呈する。けれども、ポーリンは小さくかぶりを振った。
「私は、大魔法使いとされるヤザヴィを信じる……これはきっと、”短く険しい道”」
仲間たちは、不審そうに互いの顔を見合わせた。
ポーリンは数歩進み出て、目を閉じる。集中力を研ぎ澄まし、魔法の使い手でなければ感じ取れない力を感じ取ろうとする。以前はあまり得意ではなかったが、旅に出て経験を積み、彼女の感覚は過去にないほどにまで研ぎ澄まされつつあった。
ポーリンは深く息を吸うと、ゆっくりと、だが滑らかに、他の者たちには理解できない言葉を口にし始めた。魔法の呪文……戦いの最中の慌ただしいときではなく、時間をかけたポーリンの呪文の
「幻覚破りの呪文よ」
ポーリンはみなに分かる言葉を挟み、語気を強めながら呪文を続けた。
幻覚を破るためには、幻覚の術に込められたものを跳ね返す魔力が必要になる。ポーリンは、今の彼女の力のほぼ全てを投じる必要を感じていた。
耳に心地よかった音楽的な詠唱は次第に力強さを増し、鼓膜を打つほどにまで強まった。
やがて、その呪文の詠唱が終わると、目の前に広がっていた巨大な迷宮は姿を消し、左右を枯れ木に囲まれた広い一本道が現れた。
「……これが、短く険しい道」
声を
目の前で繰り広げられた驚異に、仲間は
「大丈夫か? だが……見事だ」
チーグが言葉をかける。
「ええ、上手くいったけど……思った以上に力を消耗した。一刻ほど休ませてくれる?」
そう言い残し、ポーリンは眠りに落ちた。
ポーリンが目を覚ましたとき、太陽は既に中天を過ぎていた。完全ではないが、体力は幾分か回復していることを感じていた。
身を起こすと、仲間たちはめいめいのことを行っていた。
チーグはノタックが回収した本の一冊を読んでおり、ノタックはハンマーを目の前において
思えば、奇妙な組み合わせの、奇妙な者たちである。
それぞれがかなりの変わり者であろうことは間違いなかったが、ポーリンの胸にはそれが逆に愛おしく思えた。
旅を通して得た、貴重な仲間たちだ。
ポーリンは立ち上がると着衣を整え、ほこりを払った。
チーグが本を閉じ、ポーリンを見上げる。
「大丈夫か? この先もきっとおまえの力が必要だ」
「もちろん」
ポーリンは笑顔を浮かべた。
「さあ、行きましょうか」
そこからの一本道は、ただ何もない荒野を、ほぼまっすぐ進むだけのものだった。拍子抜けするほどに、何もない。この道を歩いているだけならば、ここが人を寄せ付けぬ呪われた地だとは到底思えないだろう。殺風景で、物寂しげな、枯れ木と岩場だけの地だ。
だが、試練が幻覚を破ることだけだとは思えず、彼らは油断することなく進んだ。
中天を過ぎた太陽が西に傾く頃、行く道の先に茶色い
歩をすすめると、その姿が次第にあらわとなる。それは、立ち枯れの木々と同化したかのような、古びた石造りの塔であった。
「……何か知っている?」
念のためにポーリンは聞いたが、チーグも肩をすくめるだけだった。
警戒しながら、彼らは前へ進んだ。
そして、塔まであと少しのところまで来たところで、それは突然現れた。
静寂の空間が一瞬にして破られ、大地から地面が
主な登場人物:
ラザラ・ポーリン サントエルマの森の魔法使いの見習い。失われた魔法の探索の旅の途中、ゴブリン王国の王位継承をめぐる大冒険に巻き込まれる。
チーグ ゴブリン王国の第一王子。人間たちの知識を得て、王国へ帰る途中。第三王子ヨーと、有力氏族の次期氏族長ダンに命を狙われている。
ノタック 放浪のドワーフの戦士。双頭のハンマーを使いこなす古強者。〈四ツ目〉との戦い以降、行方不明となっていた。
デュラモ チーグの腹心のゴブリン王国の親衛隊長。
ノト チーグの身の回りの世話をする従者。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます