いろは堂あやかし語り よわむし陰陽師は虎を飼う

霜月りつ/KADOKAWA文芸

 の時代、すみがわづま橋より下流をおおかわと言った。その大川になる手前、まつくらちようは、小さな家がひしめきあっている下町だ。

 町屋のかわら屋根がぶつかり合うくらい狭い地域に、雑木林がひとつ、こんもりと残されていた。

 雑木林には持ち主がいた。名をかんげつ家という。

 寒月家は背後に雑木林を背負い、常にその影に包まれていた。人の手の入らない林はうっそうと繁り、むくどりの鳴き声でかまびすしい。

 なのでそこは「むくどり御殿」と呼ばれていた。

 御殿、と言っても古くて大きいだけで土壁はぼろぼろだし、端の方の瓦は落ちて、長い間修繕されていない。造りは書院造りと呼ばれるもので、どことなく品があった。

 八代の将軍さまの頃までは勢いがあったというが、今では子供たちに「むくどり御殿はお化け屋敷」と指さされている。

 寒月家がなにをやっている家なのか、近所のものもあまりよくわかっていない。それでも最近、屋敷の前に看板が出るようになって、人々は「へえ」「ふーん」「ほう」と首をかしげたり納得したりしている。

 今日、そのむくどり御殿に来客があった。

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