#29 宿泊行事でありがちなハプニング

 それから、俺は風呂に入りに部屋班のみんなで向かった。石井と鈴木はキャンプファイヤーに行くらしく、誰を誘うか話していた。


「もちろん俺は柴田さん誘うぜー。鈴木は?」


 恐らく厳しい戦いになると思うが、今の石井ならワンチャンあるかもしれない。


「ヒミツ。まあ誰を誘うかは大体定まったよ」


 恐らくは関根さんあたりだろう。でも彼なら基本誰でもオッケーするだろうけど。


「オレも早く踊ってくれる人見つけないとやばい」


「応援してるよ真斗」

 

「頑張れよ」


 真斗はいい匂いがするシャンプーを使って、女子を惹きつけようとしていた。それを使っただけでモテるのなら、みんな苦労しないだろう。


 風呂から上がって脱衣所で髪を乾かしていると、クラスの男子が声をかけてきた。


「なあなあ、ちょっと神里・・・・・・いいか?」


「えっと、五十嵐だっけ? どうした?」


 五十嵐という生徒は、クラスではあまり目立たず、昔の俺みたいな感じの生徒だ。でも彼は島田と横山という仲のいい友達が二人いる。それがあの事件後の俺との違いだ。因みに、彼らは先程の柴田親衛隊の三人でもある。


「ちょっと面白いことやるから来て欲しい」


 面白いことってなんだよ。普通に面倒くさいし・・・・・・。


「真斗や石井ならやりたがると思うから、そっちを誘ってくれ」


「なになに?」


「俺も混ぜろー」


 ナイス二人とも。これで俺は部屋に帰れる。


「チッ。まあいいや。じゃあ三人とも来て」


 彼はそう言って舌打ちをして、俺らを呼んだ。てか、今三人って言ったような・・・・・・。


「一輝と鈴木はどーする?」


「ボクはいいかな・・・・・・」


「うん」


 やっぱり俺が頭数に入れられているようだ。俺はこっそり部屋に戻ろうとしたが・・・・・・。


「怜遠逃げんなよ」


「そうだぞ神里〜」


 結局二人に掴まれ、よくわからないものに付き合わされるハメになってしまった。その後、面白いものというものを詳しく聞いてみたら、三階に少し広いスペースがあるので、そこに行こうということらしい。そこに行くまで、目隠しして壁伝いに歩いていくというので、俺は反対したものの、結局やらされてしまった。

 

 因みに真斗と石井は『これをやりきったら女子と踊れる』という言葉に騙されていた。そんなもの百嘘に決まっているのに。


 そして俺たち三人は目隠しをさせられ、スタートとなった。一応危なくなったら五十嵐たちが助けてくれるらしいが、正直俺は彼らと喋ったことが全くないので全く信用できない。前世でも全然喋ったことなかった気がする。


「こっちこっち〜」


「痛え、膝打った」

 

「オレが一番乗りしてやる」


 みんなの声が響き渡る。廊下でこんな騒いでいたら注意を受けそうで怖いが、俺は半ば強制的にやらされたようなもんだし仕方ない。ただ、俺の無実を証明してくれそうなメンツがいなさそうなのは痛い。真斗と石井は『怒られるなら一緒に』ってタイプだし。五十嵐たちも同様だろう。


 そして俺がしばらく前に進んでいると、誰かに手を掴まれた。


「おい、神里あぶねえぞ」


 元はと言えばお前のせいだろと言いたかったが、変に険悪になりたくなかったので、黙っておいた。


「ちょっと田中と石井が変な方向行ったから探してくる。少しだけ待っててくれ」


 まあ彼らをうまく扱うのは相当大変なので、仕方はないものの、待たされるのは面倒だ。五分以上待たされたら戻ってやろ。


「・・・・・・よし」


「・・・・・・ざまぁ」


 何か二人が言っていた気がするが、俺には関係ないことだろう。


 それからしばらくじっとしていたものの、なんか水が流れている音がしたので目隠しを外す。それから俺はその光景に驚いた。


 それもそのはず、今自分がいるのが、女子部屋だったのだから。荷物を見る限り、大田さんたちの部屋である。


 もし俺がここにいることが彼女たちにバレたら、前世より酷い学校生活を送ることになるだろう。


 すぐに部屋から出ようとしたものの、シャワー室から出てくる音が聞こえてきたので、俺は部屋に上がり込んだ。


 そして押し入れに入ろうとしたが、一足遅かった。


「え?」


「あ・・・・・・」


 俺は、風呂上がりの伊藤さんと目が合ってしまったのだ。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る