#9 昔の出来事 後編
翌週の月曜日の昼、俺は真斗と一輝と食堂に来ていた。そして、真斗はカレーとパン、一輝はラーメン、俺はハンバーグ定食を買って食べていた。俺が食べながら先日買った本を読んでいると
「何読んでるん怜遠?」
「ながら見はやめときなよー」
二人からそれぞれ言葉が放たれた。内容には差があったが。
「ちょっとコミュ力を身につけようと思ってね」
「もしかして気になる子が出来たとか?」
「ちげーよ」
「大田さん? 流石に高嶺の花すぎないか?」
「だから違うって」
なんか勝手に話が進められてるし、違う方向に向かってるきがする。
「ちょっとこの前おとなしい子と話した時お通夜状態になっちゃってね。もう少し話せるようになりたくて読んでるんだよ」
「その人誰なん?」
「俺が昨日話した人だよ」
「あーあの人ね。名前誰だっけ」
「伊藤さんだよ」
「あーあの芋••••••」
「まあまあ、そういうのはやめよ?」
一輝••••••。助かった。一輝のお陰で真斗の自論は展開されなかった。あとでジュースでも奢るかな。
「てか、怜遠あの人狙ってんの?」
「いや、ただこれから一年間委員会で関わる以上少しは話せるようになっとかないと後々大変じゃん? だからそのためだよ」
「ふーん」
そういうと真斗は、なんかつまらなそうな顔をした。こいつはラブコメ大好きか
よ。
「てかあと約一ヶ月で中間テストだよ。勉強した?」
「するわけないだろ」
「俺は単語しかやってない」
「もうそろそろ始めといた方が後々楽になる気がするよ」
そう言って一輝は、食器を片付けに行った。一輝はあの悲劇がなかったら、どこまでいい大学に進学できただろうか。そして俺らは教室に戻った。
「ねえ大田さん」
「どうしたの? 神里くん?」
「ちょっと聞きたいことがあってさ、伊藤さんってどんな感じの人なの?」
俺は大田さんに伊藤さんがどんな人なのか聞いてみることにした。なんかわかるかもしれない。
「私もそんなに仲良くないから詳しくは知らないんだけれど、あんまり人と喋っているところは見たことないかな。中学三年から編入で入ってきたんだよ。それまでは広島にいたんだって」
広島か。俺も一時期いたから話題としてはなんとかなりそうだな。とりあえずやるだけやってみるか。
「でも急にこんなこと聞いてどうしたの? 二人になんか関連性あったっけ?」
「委員会だよ」
「あー図書委員ね。どう? 大変?」
「いや、まあ学校残らないといけないのは面倒だけど、業務自体はそんなに面倒くさくないかな」
「そうなんだ。もし手伝って欲しかったら言ってね」
「ありがとう」
本当に優しいな、彼女は。そりゃあクラスでモテるわけだ。
そして四月の第四週目の金曜日、また委員会の日がやってきた。俺はとりあえず本を運んで、伊藤さんに会話を試みてみる。
「伊藤さんはテスト勉強やってる?」
沈黙が続く中、俺は言葉を発した。大丈夫だ。俺はあの本だって読み終えたし、クラスの人ともそこそこ話せるようになった。
「••••••あんまり」
彼女は小さい声ながらも、しっかりと聞いたことには返事を返してくれる。まあ、関係が進展してるわけではなさそうであるけど。
「実は俺数学がヤバいんだよね。どうしよ」
実際普通に数学が難しいのである。昔から理系科目は苦手だった。文系では一輝に勝てるのに、理系科目のせいで総合では絶対勝てないのである。
「••••••私もそこまで得意じゃないし」
「俺よりは出来てそうだけどね」
「そんなことないと思う」
この前と違って結構会話が続いてる気がする。このまま会話を繋げてみるか。
「実は自分最近尾道ラーメン食べたんだよね。豚骨醤油美味しかった」
「尾道ラーメン美味しいよね」
よし。会話に乗っかってくれた。このまま広島の話題に持っていくか。
「お好み焼きも美味しかったし、広島はいいものが多いなー」
「でしょ? 他にも島だったり、カップだったり、博物館だったり、記念館だったり••••••。てか、もしかして神里君広島好きなの?」
これは軌道乗っただろ。
「実は中学一年のころ、一年だけ広島に住んでいたからさ、そこら辺のスポットも全
部行ったことあるし、料理も食べたことあるよ」
「••••••そうだったんだ」
「確か、中一頃、俺が家出しちゃって、その時仲良くなった女の子がいたんだよね。
彼女元気かなー」
俺は広島にいた頃、ある女の子に出会った。結局連絡先も聞けずじまいだったけど。たしか名前は•••••••。あれ? もしかして。これって。
「••••••会えるといいね」
「ねえ、変なこと聞くけど、俺と昔会ったことある?」
言葉を発した後に気づいたけど、聞き方が悪すぎた。
「••••••どうして?」
下を向きながら声を発した。その声は震えている。
「俺も何でこんなこと聞いたのか自分でもわからない。でも、なんかよくよく考えたら、君と関わった記憶があるんだよ」
「••••••」
そうだ、この子はあの時会った子だ。見た目はだいぶ変わってるけど、仕草や声色はあまり変わっていない。
「もしかして、あの時会ったかのんちゃん?」
そうやって尋ねると、かのんちゃんは小さく頷いた。
*
あれはそう、中学一年生の頃のことだった。俺は広島の中学校であまり馴染めずに、つまらない学校生活を送っていた。ただ学校に行って、授業を聞いて、弁当を食べて、家に帰るだけだった。だから夏休みに入ったことが、余計に嬉しかったことを今でも覚えている。
そして俺が夏休みを満喫していた中、ある出来事が起こった。それは、柚の中学校問題だ。広島には仕事の都合で一年しか滞在しないことがわかっていたので、公立には行かずに私立関東の学校を受験しようとしていたのだが、それが当時の俺には理解できなかった。自分は公立に通ってるのに、妹は私立に通おうとしてることが。
しかしそれにはいじめを受けているという理由あったのにそれを俺は知らなかった。そして妹と口論になってしまった。
「柚は私立にいくのか?」
「うん。その方が過ごしやすいしね」
「もし今学校で何かあるのか?」
そうやって聞くと、柚は黙ったまま何も言わなかった。
「俺に話してみてよ、なんか力になれるかもしれないし」
「何もないって」
「もしかして、いじめとか?」
「そんなものないって言ってるじゃん!!」
そう言って彼女はものすごい剣幕で叫んだ。そして俺も睨みつけた。俺はなぜ心配しているのにこんな対応をされるのか理解し難かった。
「お兄ちゃんなんて、嫌い」
この言葉を聞いて俺は、もうここに居場所はないと察した。
そうして俺は必要なものだけ持って家を出た。どこか俺を誰も知らない所に行って、何も気にせずにすごしたいと思っていた。そのまま電車に乗って市街地まで行くことにした。電車の揺れる音と窓から入ってくる心地よい風もあり、俺は乗ってすぐに眠ってしまった。
そして起きたら、もう目的地に着いていた。とりあえず今日はしたいことをしまくって、お金が底を尽きてからどうするか考えようと思い、駅から出た。しばらく歩いていると、川が見えてきた。その橋の上に一人の少女が立っていた。黒い髪のボブカットにブレザーを纏っていた。表情は暗く、俺と同じような顔色をしていた。その子と俺は目が合って、俺の方に近づいてきた。
「ねえ君、ちいとうちに付き合うてほしい」
そう言って彼女は俺を誘ってきた。最初は突然話しかけて驚いていたものの、自分も誰かと話していたい気分だったので、首を縦に振った。
「そがいな荷物で何しにきたの?」
彼女は不思議そうな目をして聞いてくる、俺はある出来事があって家出をしてきたことを彼女に伝えた。そしたら彼女は優しく慰めてくれた。
「実はうちも家出。まあ喧嘩したわけじゃないんじゃけどの。ただ感傷に浸るため」
彼女の家庭にもなんか問題があるんだろうなと思った。
「うちゃかのん、君の名前は?」
「怜遠」
「怜遠君ね、よろしく」
彼女はかのんと言って、中学一年生らしい。俺と同い年だった。そしてそのまま色々なところに行った。記念館にも行ったし、島にも行った。観光しているときに、彼女の家の事情を聞いた。小学生の時に父親が家を出て行って、母親と一緒に暮らしていること、そのために、迷惑をかけたくないらしい。
「怜遠君、うち夢があるの」
彼女は真剣な眼差しで言った。今までと雰囲気が違った。
「夢って? 将来なりたいこととか?」
「ううん、うちゃ早うお母さんを楽させちゃりたい。うちのせいでお母さんはいつも大変な思いをしとる」
「いいんじゃない? 夢があるっていいことだと俺は思うよ」
「うん。ありがと。君と話せて良かった」
そう言って彼女は笑った。綺麗だと思った。
「俺も変わるよ。このまま逃げ続けちゃダメだと思う」
気づいたら俺もなんか宣言をしていた。
「え?」
「俺も頑張って家族を幸せにしたい。特に妹を」
「うん、じゃあ約束ね、共に頑張ろうね」
そうして二人と約束をした。そのまま最後に球場でスポーツ観戦をした。
「田中選手かっこよかったね」
「菊池選手も良かったな」
そのまま会話をしていると、母親と柚が目の前にいた。
「お兄ちゃん!!」
柚は泣いていた。俺は彼女を抱きしめた。
「ごめんな柚、お前の気持ちをわかってやれなくて」
「お兄ちゃんが心配してくれていたのに塩対応だった私が悪かったよ、ごめん」
「怜遠、良かった」
俺の居場所は位置情報でわかったらしい。
「ありがとう。すっかり仲直りできた・・・・・・。ん?」
しかしそこにさっきまでいた彼女はいなかった。俺はてっきり今まで幻を見ていたのだと疑うほどだった。
*
「本当に君が、あの時の女の子なんだね」
彼女は涙を流しながら、頷いた。俺は彼女を慰めた。
「でも、約束守れなかったから••••••」
彼女はあの後、何事にも頑張ったらしい、しかし、それをよく思わない輩がいて、色々言われたらしい。そしてこうなってしまったらしい。
「ごめんね、約束守れなくて••••••」
彼女のことを見てみると、昔の顔とそっくりだった。前髪が目にかかってないのと、眼鏡を外しているからだろう。
「大丈夫だよ。まだ人生が終わったわけじゃない。ここから頑張れば何とかなるよ。
実際俺も終わりかけていたしね」
この転生がなかったら、俺も過労で倒れていたか、自分で命を断っていた未来しか
なかっただろう。
「ここから、頑張っていこ?」
「うん」
外を見ると、夕陽が見えていた。
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