ねぐるしい
ねぐるしい
女は寝苦しい夜を過ごしていた。
とにかく蒸し暑い。
布団などかけてないのに蒸し暑くじめじめして寝苦しい。
扇風機をつけてはいるが、生暖かい風が当たるだけで全然涼しくはない。
夕方から夜にかけて二十五度以上なら熱帯夜。そう言う定義であるのであれば、今日は間違いなく熱帯夜だ。
そんな夜に、かわいそうなことにエアコンが故障し、この蒸し暑い中、女は寝なくてはならないのだ。
更に窓を開けているせいか、ブーンと蚊の羽ばたく音が聞こえる。
定期的に扇風機の首振り機能で風で飛ばされていくのだが、それでもしつこく血を吸いに蚊が来る。
それが蒸し暑さに加えて、女を更に寝苦しくしている。
布団をかぶれば暑くて寝られず、布団をかぶらなくても暑いのに蚊までくる。
女は叫びたくなるのを我慢して、顔だけを布団にかけた。
これで蚊の羽音だけは聞こえなくなる。
そう思ったからだ。
だが、どういうわけか、蚊の羽音は布団をかぶっているにもかかわらず間地かでブーンと聞こえてくる。
布団をかぶるときに蚊が紛れ込んだのかと、女は慌てて、布団を払いのける。
薄い布団をバタバタと払い、改めて顔にだけ布団をかぶる。
それでもしばらくすると、ブーンと蚊の羽音が聞こえてくる。
女も布団が薄すぎて、羽音が聞こえてくるだけだと改めてわかる。
なら布団をかぶる意味もない。
ただでさえ暑苦しいし、寝苦しいのだから。
女はごろごろと寝床の上を動き回る。
そうしていると、脚の方にひんやりとした空気を感じる。
扇風機の起こすなぜに乗って冷たい空気が流れてくる。
女はなんだか知らないけど、少しだけ涼しいと喜んだ。
また、扇風機の風に乗って冷たい空気が運ばれてくる。
女はなんだろう、とそう思ったが、涼しいのなら何でもいい、とあまり深くは考えなかった。
時がたつにつれ、冷たい風が運ばれてくる機会が増える。
そして、足音が、ヒタ、ヒタ、ヒタ、と聞こえてくる。
扇風機の羽が周る音に紛れて、確かに足音が聞こえる。
女も流石に誰かいると気づき、慌てて電気をつける。
だが、だれもいない。
電気を消してしばらくすると、またヒタヒタヒタと、部屋を歩き回る音がする。
女は薄目を開けて部屋を見る。
誰かの足が、足だけが暗闇の中に見える。
女は慌てて電気をつける。
女が部屋を確認すると誰もいない。
いたとしてもそれはそれで困る。
女が見たのは足だけで、足から上は見えなかったのだから。
もしかして、窓を開けていたせいで蚊だけでなく幽霊まで入り込まれた? と女はそう考えた。
そして、女は誰もいない部屋に向かって言ったのだ。
居てもいいから扇風機の前に立ってて、と。
そう言って女は電気を消して再び寝床に横になった。
扇風機から心地よい冷たい風が流れてくる。
ほどなくして女は意識は眠りに落ちていく。
そして、眠る直前に、エアコンが治るまで扇風機の前に居てくれないか、とそう思いながら眠りに落ちていった。
次の日の夜、扇風機から運ばれてくる風は、生暖かい風でしかなかった。
エアコンの修理までもうしばらく日数がかかる。
女の寝苦しい夜は続く。
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