いけがき

いけがき

 少女が学校に通う途中に大きな生垣の家がある。

 綺麗な緑色で、青々とした植物の壁だ。


 少女がいつものように、その生垣のある道を通っていた時のことだ。


 生垣の向こうに、いや、中に、植物の生い茂っている、葉と枝の中に誰かがいる。

 誰かが潜んでいた。

 それは少女を見る。

 葉と葉と間から、ギョロリとした眼だけが少女を見つめていた。


 少女もその視線に気づく。

 そして、だれ? と、その潜んでいる者に声を掛ける。

 そうすると、潜んでいる者は、外が暑くてかなわんから、少しここで休んでいるところだ、そう答える。


 今はまだ朝だ。

 だが、最近は朝でも暑い。

 日陰で、陽の当たらない所で休みたくなるのも分かる。


 なので、少女は、その潜んでいる者にむかい、お水いる? と、声を掛ける。

 そうすると、その者は、水を持っているのか? ありがたい、くれっくれっ、と、すぐに答える。


 少女は首から下げていた水筒を取り出して、その者に蓋を開けて渡す。

 そうすると、ゴクゴクと喉を鳴らす音がして、空になった水筒が少女にむかい返ってくる。


 少女は水筒の中身を全部飲まれてしまったことに不満そうな顔をする。

 だが、生垣に隠れている者は、満足そうに少女に言った。

 礼に一度だけ助けてやる、と。


 少女は飲まれた水筒を眺めながら、それなら、と、納得する。

 それに良いことをしたのだと。


 少女は軽く別れの挨拶を言ってその場を後にする。




 それから数年が経った後のことだ。

 少女は大人になる前に、大病を患った。

 医者にはもう助からない、少女には伝えられなかったがそう少女の両親には言われていた。

 けれど、少女にも両親の顔を観れば、あまり自分が良くないという事はわかっていた。


 少女が散歩がてらに病院内を歩く。

 点滴スタンド共に歩く。


 病院の一角にある休憩スペースの前を歩いていた時だ。

 そこには造花の生垣がある。

 小さな生垣だったが、その中になにか影が見える。

 そこから、少女にむかい声がかけられる。


 おい、約束を果たしてやるぞ、と。


 少女は子供の時の事などすっかり忘れていたので、ただただ驚く。

 少女は慌てて自分の病室へと逃げ込んでいった。


 だが、それからだ。

 少女の病状が徐々にだが回復していったのは。


 医者はまるで奇跡だ、と驚いていたそうだ。




 

 

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