どうきょにん
どうきょにん
男は父が残してくれた大きな一軒家に一人で住んでいた。
男には伴侶も恋人も、友人すらいなかった。
ただ会社と家を行き来する日々。
そんな人生を歩んでいた。
そんな男に同居人ができる。
いや、同居人と言っていい物かどうか、それも不明だ。
男がその同居人に気づいたのは、食卓で遅い夕食を食べようとした時のことだ。
ここ最近、家の中で物音がしたり、勝手に物が落ちたりして、男が不思議に思っていた。
仕事が終わり、一人帰り道を歩き、暗く電気の付いてない家に着き、一人で夕食を用意して、それを誰もいない食卓に並べていた時の話だ。
男が座る席の迎えの席に黒い人影が座っている。
黒い煙のような、はっきりとは見えないが、確かに黒い人影が座っていた。
最初は男は余りにも寂しすぎて、幻が見えるようになったのか、そう考えた。
だから、男はその黒い靄の人影を気にすることなく食事を取り、食べ終わった食器を洗い、そして、風呂の準備を始めた。
いつもの日常通りにだ。
その間も、黒い靄は食卓の席に座るように存在していた。
異変が起きたのは、男が朝起きたときだ。
部屋が、いや、家の中がひどく荒らされている。
泥棒か? と男は思ったが、盗まれているような物もなく、誰かが入った形跡もない。
考えられるのは昨日見た、黒い靄の人影だ。
あれが暴れたのだ。
男が眠りについた後に。
男は、とりあえず会社へ向かう。
そして、仕事からか帰ってくると、食卓の同じ席に昨日と同じ黒い靄とも影とも取れる存在は座っている。
男が普段座る席の向かいに、座っている。
男は少し考える。
この恐らくは人間でない存在相手になにができるのかと。
男は不思議と怖くはなかった。
それどころか、一人ではない、そう思うと嬉しくもあった。
なので、男はその黒い靄を歓迎することにした。
食事を二人分作り、コップを置き、そこに日本酒を注いだ。
だが、男の前でそれらに黒い靄が手を付けることはない。
その晩は家が荒らされることはなかった。
食事には手を付けていなかったが、コップに注いだ酒だけは無くなっていた。
それから男は黒い靄に食事と酒を与え続けた。
そのうちに男は、黒い靄に話しかける様にまでなる。
仕事の愚痴を言い、今日こんなことがあったと話、何か欲しい物はないですかと、黒い靄に語り掛けた。
そうしているうちに男はお喋りになり、ハキハキと喋るようになり、性格も明るくなった。
そうなったことで、会社でも友人ができ、その友人の紹介で彼女までできた。
男は、小さな神棚を買ってきて家に飾り、黒い靄にむかい、感謝を述べた。
それ以来、黒い靄は食卓には現れなくなった。
それでも男は神棚に毎日、日本酒とご飯を供えていて、それは先祖代々受け継がれていく事となった。
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